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CINEMA REVIEW

--こんなん観ましたけど。--

映画は面白い。
迫力満点のアクション物、感動の名作、お笑い系、何でもござれ(怖いのはちょっとゴメンナサイ)。
1,800円の価値があるかないか、「当たり」に当たったときの感動は筆舌に尽くしがたい。
ここでは観たものを、えらそうにかつ超主観的に言いたい放題批評させていただきます。
いやー、映画って、本当にいいもんですねー。

 1.ロード・オブ・ザ・リング 王の帰還   2.シカゴ   3.座頭市   4.フォーン・ブース  5.ターミネーター3  6.トロイ   7.ティアーズ・オブ・ザ・サン  8.デイ・アフター・トゥモロー  9.AKIRA(アキラ)  10.ラスト サムライ  11.ムーンライト・マイル  12.スパイダーマン2  13.マスター・アンド・コマンダー  14.バイオハザードU アポカリプス  15. 2046  16.ハウルの動く城  17.ロスト・イン・トランスレーション  18. 21g(21グラム)  19.ブラザーフッド  20.ビッグフィッシュ  21.ナショナル・トレジャー  22.ミリオンダラー・ベイビー  23.コラテラル  24.ターミナル  25.宇宙戦争  26.スター・ウォーズ エピソード3/シスの復讐  27.Ray/レイ  28. 24(TWENTY FOUR) シーズンT  29.エターナル・サンシャイン  30.SAW(ソウ)  31.アイランド  32.ミュンヘン  33.クラッシュ  34.ティム・バートンの「コープスブライド」  35.Mr.&Mrs. スミス  36.M:i:V


36. M:i:V(2006.8)

基本情報 製作:2006年 米国作品
上映時間:126分
監督:J・J・エイブラムス(「LOST(TV)」製作総指揮)
出演 イーサン・ハント…トム・クルーズ(「宇宙戦争」’05)
オーウェン・ディヴィアン…フィリップ・シーモア・ホフマン(「カポーティ」’05)
ルーサー…ヴィング・レイムス(「M:I-2」’00)
ゼーン…マギー・Q(「ラッシュアワー2」’01)
ジュリア…ミシェル・モナハン(「Mr.&Mr.スミス」’05)
解説 超一流のスパイとして活躍したIMFのエージェント、イーサン・ハント。現在は引退し、教官として優秀なスパイの育成に務めていた。私生活でもフィアンセの看護士ジュリアとの結婚を控え、充実の日々を送っていた。そんなある日、イーサンのもとにIMFから新たなミッションが届く。教え子である女性エージェント、リンジーが悪の組織に拘束されてしまったのだ。さっそく同僚と共に救出へ向かうイーサン。やがてそんな彼の前に、国際的な闇ブローカー、オーウェン・デイヴィアンが立ちはだかる…。

やっぱり、1⇒3⇒2の順番かなあ…
いや、何って、「ミッション:インポッシブル」シリーズの良かった順ですよ。
全て映画館で観たけど、10年前の「1」が一番面白かったかな。
東欧の美しい街並みや、CIA本部に潜入する時の呼吸すら忘れるような緊迫したシーンは有名ですな。
これらの凝った映像表現や、どんでん返しが連続するストーリーは、さすが「アンタッチャブル」(1987)や「スネーク・アイズ」(1998)の監督で有名なブライアン・デ・パルマの作品と思わせる。
「アクション映画」としては秀逸でしたよ。ただ、トムのワンマンな活躍ぶりとか裏切りに続く裏切りで、昔からの「スパイ大作戦」ファンから厳しい批判を受けることになったけど。

けど、それも「2」に比べりゃ大したことなかった…
「2」ははっきり言って「007」なみのスーパーマンぶりですよ。いや、スーパーマンそのものかって感じ。
ま、監督からして「男たちの挽歌」シリーズや「フェイス/オフ」(1997)のジョン・ウーだったりするからね。2丁拳銃でもってバンバン撃ちまくるわ、必要以上のスローモーションで鳩は飛ばすわ… こんな派手で目立つスパイはいないでしょ。
というわけで、「2」はスパイ映画でも、「ミッション:インポッシブル」でもなかった代物でした。

「3」のスタートは今までといささか異なります。
当世はやりの回顧シーン?から始まって、過去にさかのぼるような展開。
それもいきなりイーサンは捕まっててヘロヘロになっており、向かいに美しい女性が同様に捕まって座らされている。
口を割らないと女性を殺す、なんて言われても口を割らないイーサン。で、その結果…

若干暗い気持ちを抱きつつ、いつものようにミッションがスタート。
とはいえ、最初のベルリンでのミッションも派手派手な救出作戦。鮮やかに成功したかと思いきや、謎を残して同僚は死んでしまう。
ある大物を誘拐するためにバチカンに忍び込む第2のミッションが、チームプレイとスパイ小道具を駆使した最もこのシリーズらしい、切れ味鋭い場面になりましたね。
うそかほんとか、一瞬にして首から上のマスクを作ったり、本人の声を録音して解析し、(おそらく)声帯を電気的に動かすことによって、本人の声色まで真似てしまう。本当にできたらコピーマシンはいらないな…
このふてぶてしい悪人のオーウェン・デイヴィアンを演じたのはフィリップ・シーモア・ホフマン。2005年度のアカデミー賞、「カポーティ」で主演男優賞を獲った名優です。

アメリカに戻ったら、このディヴィアン奪還のための襲撃を受けてしまうイーサン。手持ちカメラを駆使し、緊迫感溢れた臨場感たっぷりのシーンで、トムも体を張って激しいアクションを遂行しています。戦闘機やらミサイルやらが出てきたりしてシリーズでもメチャメチャ度NO.1か。

しかし、上海でのシーンはいかんですなあ。お目当てのビルに近づくところと、ビルから脱出してからのシーンは大掛かりでまあ楽しめるのだが、肝心の「ラビットフット」を奪うシーンが割愛されている… おいおいそれを省いてどうする。ダイ・ハードな活躍ぶりを見せるんじゃなくて、緻密に完全な計画を立ててそれを実行するのがスパイでございましょう。まさか「完全版」とか「ディレクターズカット」とか言って何年後かに出したりするんじゃ?

まあいつもの通りどんでん返しがあったり、冒頭のシーンや第1のミッションが伏線になってるんだけど、この辺はまあ予想の範囲内でいいんじゃないでしょうか。チャンチャン!って終わり方もまあいいとしよう。
金の掛け方、トムの体の張った演技、カメラワーク、音響、どれをとってもAクラスのアクション作で、久しぶりにハラハラドキドキの緊張の連続で体が固くなったね。ただ、2時間あまりの短時間に内容を詰め込みすぎた感が。
もう、「スパイ大作戦」を再現することとかは忘れていいです。「M:i」シリーズという新たなカテゴリーで結構。久しぶりにスッキリ面白いと思った「アクション」映画でした。44歳のトム、体力の続く限り頑張ってください。8点

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35. Mr.&Mrs. スミス(2006.6)

基本情報 製作:2005年 米国作品
上映時間:118分
監督:ダグ・リーマン(「ボーン・アイデンティティー」’02)
出演 ジョン・スミス…ブラッド・ピット(「トロイ」’04)
ジェーン・スミス…アンジェリーナ・ジョリー(「スカイキャプテン」’04)
エディ…ヴィンス・ヴォーン(「ザ・セル」’00)
ジャスミン…ケリー・ワシントン(「Ray/レイ」’04)
解説 運命的な出会いの末、電撃的に結婚したスミス夫妻。しかし、この2人には互いに相手に知られたくない秘密があった。実は、Mr.スミスは直感を頼りに修羅場をくぐり抜けてきた一流の殺し屋、一方のMrs.スミスも最新鋭のテクノロジーを駆使してミッションを遂行する暗殺エージェントのエースだったのだ。しかも2人は対立する組織に属していた。互いに正体を隠し結婚生活を送っていた2人だったが、ある時ついに、ミッション遂行中の現場でバッタリ出くわしてしまう。正体を知られてしまった以上、たとえ愛する人でも抹殺するのがこの世界の掟。さっそく2人は相手を始末すべく、壮絶な戦闘を開始するのだが…。

壮大なる夫婦喧嘩ムービー。
スパイだろうが秘密工作員だろうがあんまり関係なし。武器だって入手し放題。
あんなにドンパチやってても絶対に弾は当たらないし、むしろわざと外してるんかいなと思わせてしまう。
この辺、どう観てもお笑い映画
深刻さのカケラもなし。

脂の乗り切ってるお二人、ブラピとアンジェリーナ・ジョリーが主演しています。この人たち以外に誰が出てたっけ?と悩むくらいの活躍ぶりでしたね。
とはいえ、めちゃめちゃお金をかけた超大作というわけではなく、どことなくB級映画っぽい「クサい」演技があったり(二人が出会うシーンとか)、どうでもいいシーンをじっくりスローで流したりと、何となく苦笑しちゃうシーンが多いですね。
私生活でも結局夫婦になっちゃったりお子様が生まれたりと、まさに二人のためだけにある映画のようだ。いい宣伝になったよなあ。上手いと言えば上手い。

二人の運命の出会いのシーンからしてなんだか漫画チック。
何となくすれ違いの結婚生活や、所々で垣間見える「鍛えられた人間」の技?の数々が、オーソドックスに展開されてまあまあ笑える。ブラピの正体がバレる原因は・・・やっぱり笑えますね。

一番盛り上がるのはやはり家の中での戦闘?シーンで。
でも、いくら大豪邸だからってあんなにボコボコに撃ちまくったら崩壊するでしょ、普通。日本の木造2階建ては、耐震性は考えていても耐銃弾性はゼロですからね(当たり前)。わざと重要な柱を外して撃ってるなら超絶テクニックだけど。
終盤、互いの組織に狙われて、しょうがなく?殺し合いをやめて二人で対決していくのだが、これが一見涙ぐましいまでの夫婦愛というか、このまま二人殺されちゃうのかね?と思いきや、敵をなぎ倒して生き残っちゃう。あら、ホロリとさせられたのは無駄?みたいな悔しさが。
そしてそのまま能天気なエンディングへ。
たぶん、これってはめられてるんだろうな。

どうみてもDV映画には見えないので、安心して楽しめるでしょう。内容は、まあ、二の次で。7.5点

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34. ティム・バートンの「コープスブライド」(2006.3)

基本情報 製作:2005年 英国作品
上映時間:77分
監督:ティム・バートン(「チャーリーとチョコレート工場」’05)
声の出演 ビクター…ジョニー・デップ(「シークレット・ウィンドウ」’04)
コープスブライド…ヘレナ・ボナム=カーター(「ビッグ・フィッシュ」’03)
ビクトリア…エミリー・ワトソン(「レッド・ドラゴン」’02)
解説 19世紀ヨーロッパのとある小さな村。ビクトリアとの結婚を間近に控えた青年ビクターは、ある日森の中で地面から突き出ている人の指のような棒きれを発見する。彼は本番の練習のつもりでその棒に結婚指輪をはめ、誓いの言葉を述べるのだった。ところがそれは本物の人骨で、突然地面から花嫁衣装を着た白骨化した女性が現われるのだった。彼女はこの世に未練を残し亡くなった花嫁で、ビクターの言葉を真に受けて、死者の世界から舞い戻ってきてしまったのだった。そして恐れおののくビクターを強引に死者の世界へと連れ去ってしまうのだったが…。

みんな顔色悪いよ… あ、しょうがないか。死んでるから。
そんなブラックな笑い満載です。

奇才というより奇人・変人ティム・バートン監督のダークなアニメです。アニメと言ってもディズニーとかの明朗快活・純粋無垢な教材アニメと対極に位置する、「こんな子に育てた覚えないワ」と言われるような大人向けの(見た目)暗いアニメです。

ティム・バートンお得意のストップモーション・アニメ(簡単に言うと「パラパラ漫画の人形版」)最新作です。商業ベースでこのタイプのアニメを撮ってるのって彼くらいかも。というのも、基本的に人形を少し動かしては撮影し、またちょっと動かして撮影し…ってのを延々と続けるわけで、とてつもない時間と労力がかかるからですね。なんせ1、2秒のシーンを撮影するのに12時間かかるってのもあるらしいっすから。77分の本作だと…

実は観てないんだけど名作らしい「ナイトメア・ビフォア・クリスマス」(1993年)は、ハロウィンとクリスマスが題材のハッピーなミュージカル調アニメらしいが、こっちは人間の世界と死者の世界が舞台だけどミュージカルっぽくもあるという難しい設定なのです。
でも、映画での実世界は、暗くて、灰色がかったモノトーンの色彩。いやな人間がたくさん出てくるし、見栄や強欲、金金金の拝金主義、階級社会なんかが表れていてドロドロな感じ。
それに対して、死後の世界?の明るく、楽しいこと! みんな死んでることを自覚しているから、逆にやりたいようにやって生き生き?している。歌って踊って、笑いに溢れて、でも他人?を思いやることも忘れない。
事故で死んじゃった御者が、死後の世界に来て「ほっとした」なんて本音を言ってたりしてるし。バートンは「生きているってことは辛いことばっかりだ。実世界の方がよっぽど住みにくい」なんてメッセージを発しているのかなと思ったりする。

このパペット達の動き、表情が素晴らしい!人形であるはずの彼らが、人間が演じるような複雑な動きや表情の変化を見せ、感情移入しまくりの「演技」を見せてくれます。普通の2次元的なCGアニメには出せない、立体的な物質のみが出しうる「存在感・質感」が、パペット達が持つはずのない感情を滲み出させてくれるようです。一時期、超リアルで人間みたいなフルCGアニメが出たこともありましたが、アニメだから出せる「人間の姿」というものを素晴らしく引き出している作品と思います。

悲劇的な事件によって現世に未練を残した花嫁(コープスブライド)に対し、最初は怖がって現世に帰りたがったビクターも(そりゃ当然だわな)、次第にコープスブライドの一途な想いに惹かれ始める。で、まあいろんな事件があって現世に帰ることを諦めかけた辺りからの展開、先は読めそうなんだけどそれぞれの想いを想像しながら観ていると、誰もが幸せになってほしくなる。
複雑な感情を抱きながら投げる花嫁のブーケ・・・ 空に消えていく蝶・・・ 必ずホロリとさせられるシーンです。美しい音楽と共に、しばらく温かい気持ちになれることでしょう。
一人で観るのももったいないので、是非お二人で。8点

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33. クラッシュ(2006.2)

基本情報 製作:2004年 米国作品
上映時間:112分
監督:ポール・ハギス(「ミリオンダラー・ベイビー」’04)*脚本
出演 ジーン…サンドラ・ブロック(「デンジャラス・ビューティ2」’05)
グラハム…ドン・チードル(「ホテル・ルワンダ」’04)
ライアン巡査…マット・ディロン(「シティ・オブ・ゴースト」’02)
キャメロン…テレンス・ハワード(「Ray/レイ」’04)
アンソニー…クリス・“ルダクリス”・ブリッジス(「ワイルド・スピードX2」’03)
リア…ジェニファー・エスポジート(「TAXI NY」’04)
解説 クリスマスを間近に控えたロサンジェルス。黒人刑事グラハムとその同僚でヒスパニックの恋人リア。銃砲店で不当な差別に憤慨するペルシャ人の雑貨店経営者ファハド。白人に敵意を抱く黒人青年アンソニーとピーター。地方検事のリックとその妻ジーン。差別主義者の白人警官ライアンと同僚のハンセン。裕福な黒人夫婦キャメロンとクリスティン。やがて彼らの人生は思いがけない形で交錯、大きく狂い始める…。

自動車事故の話ではありません。勘違いしてました。ま、そのシーンも最初と最後で出てくることは出てきますが、テーマは「人間と人間」そして「人種と人種」の衝突、“クラッシュ”です。これまた重いテーマです。人種のるつぼ、アメリカの暗部と言われる「人種差別」を、様々な立場の人を通して淡々と、そして時に熱い感情を交えて映し出した、良い作品です。本年度アカデミー賞で6部門にノミネート(作品賞、監督賞、助演男優賞(マット・ディロン)、脚本賞、編集賞、歌曲賞)されております。そう、メインで流れる曲も、悲しさ・寂しさを表した旋律がこの映画にとてもよく合ってた気がします。
*祝!3部門(作品賞・編集賞・脚本賞)を受賞! 素晴らしい!

かなりゴージャスなキャストですが、各々が一つのストーリーの主役となり、並行してそれらのエピソードが進行していく。あるストーリーの主役的な人が、別のストーリーで脇役的に演じているという、少し入り組んだ展開をしています。
一見てんでバラバラに進んでいるストーリーが、進むに連れて微妙に絡み合い、思わぬ方向に人々の運命が回り始め、もっと大きなストーリーを作り上げていく。この絶妙な絡み具合、アカデミー賞ノミネートも納得の脚本と思いましたね。

しかし、出てくる人達、決して良い人ばかりではありません。差別発言やお下品な言葉のオンパレード、感情剥き出しの世界で繰り広げられる会話の内容は、正直言って気持ちのいいものではありません。アメリカという、懐深くあらゆる人を受け入れる国で自由に生きていくための、自己責任(簡単に言うと「自分の身は自分で守れ」やね)と自己防衛意識から来る、本音と感情のぶつかり合いの連続です。そのような環境に慣れていない僕たちが観ると、「こんなこと毎日やってたら気が休まる暇が無い。大変だ!」ってなります。言葉の端々やちょっとした行動に表れる「差別」的な事柄や誤解が、下手すると刃傷沙汰になるという世界は、想像もできない。

いくつかあるエピソードでも印象に残るもの、一つはお久しぶりのマット・ディロン演じる警官のエピソードですね。この方、「アウトサイダー」(1983年)でトム・クルーズやらパトリック・スウェイジら共演し、次代を担う実力派ヤングスターだったのに、その後はこれと言った当たり作はなく。でもこの映画で見事復活!昔と同様の若々しさと、感情の起伏を見事に表現した素晴らしい演技でした。
共に暮らす病気の父親、病院で便宜を図ってもらえないことを黒人の受付に当り散らし、その憂さ晴らしで黒人夫婦をちょっとした運転中の罪で彼らの尊厳を傷つけるような取調べをしてしまう。後日、交通事故で転倒した車から救出しようとした女性が、その黒人夫婦の妻その人だった。激しく抵抗する妻を命がけで車から救出する。まさに運命のあや、いかなる状況でも懸命に人の命を助けようとする犠牲心と、差別意識の同居。父親を抱きかかえるシーンは胸を打ちます。
対称的に、そんなマット・ディロンの差別的態度に嫌気が差した若い警官、別のシーンで先の黒人夫婦の夫の方を助けてあげるのだが、後にヒッチハイクした黒人の若者をちょっとした誤解から射殺してしまう。タイミングと状況によって、いつでも加害者になってしまう、差別意識というのがいかに根深いところに存在するかが提示されています。

もう一つ、鍵修理の若いお父さんの話。彼の鍵修理アドバイスを断った店の主人が強盗に入られ、彼を犯人と思い銃で殺しに行きます。彼には小さい娘がいて、お父さんが着ていた「目に見えない、銃の弾を通さないマント」を前の晩におまじないで着せてもらってました(もちろんウソです)。それを信じた娘が、撃たれそうになったお父さんをかばって飛び出すシーン… 思わず涙腺が緩みます。

黒人刑事役のドン・チードル「ホテル・ルワンダ」(2004年)で昨年のアカデミー主演男優賞にノミネートされたお方です。親子関係に悩み、犯罪者の弟のことで検事と取引を行う、強くもあり、弱くもある一人の人間を好演している。はっきりと映画で出てきているわけではないが、彼がこの映画でもっとも過酷な運命だったのかもしれない。
検事の妻役で、セレブだけどヒステリックに差別意識を持つサンドラ・ブロックは、ちょっと中途半端なストーリーで今いち感情移入できず。

もちろん重い映画だが、救いもある。気分が悪くなるような人種差別の現実が心に重くのしかかるが、希望もないわけではない。「差別は悪だ」と正義を振りかざす薄っぺらい映画ではないが、他人との接し方について考えさせられることは多い。このバランスがいいんだと思います。ということで、8点差し上げます。

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32. ミュンヘン(2006.2)

基本情報 製作:2005年 米国作品
上映時間:164分
監督:スティーブン・スピルバーグ(「宇宙戦争」’05)
出演 アヴナー…エリック・バナ(「トロイ」’04)
スティーヴ…ダニエル・クレイグ(「ロード・トゥ・パーディション」’02)
カール…キアラン・ハインズ(「オペラ座の怪人」’04)
ロバート…マチュー・カソヴィッツ(「アメリ」’01)
エフライム…ジェフリー・ラッシュ(「パイレーツ・オブ・カリビアン」’03)
解説 1972年9月5日未明、ミュンヘン・オリンピック開催中、武装したパレスチナのテロリスト集団“黒い九月”がイスラエルの選手村を襲撃、最終的にイスラエル選手団の11名が犠牲となる悲劇が起きた。これを受けてイスラエル政府は犠牲者数と同じ11名のパレスチナ幹部の暗殺を決定、諜報機関“モサド”の精鋭5人による暗殺チームを秘密裏に組織する。チームのリーダーに抜擢されたアヴナーは祖国と愛する家族のため、車輌のスペシャリスト、スティーヴ、後処理専門のカール、爆弾製造のロバート、文書偽造を務めるハンスの4人の仲間と共に、ヨーロッパ中に点在するターゲットを確実に仕留めるべく冷酷な任務の遂行にあたるのだが…。

巷ではトリノ五輪の(まだ)メダルゼロの日本が話題ですが、奇しくも(か、狙ったのか…)五輪の長い歴史でも最も悲惨な出来事の一つである「ミュンヘン事件」を題材にした映画が公開されました。
私も含め、この事件をよく知らない人のために解説。

1972年9月5日早朝、オリンピック会場内のイスラエル選手村に、武装したパレスチナの「黒い九月」メンバー8名が乱入した。犯人グループはイスラエル人選手とコーチの2名を殺害し、残りの9名を人質に取った。これによりオリンピックの競技は中断される。
「黒い九月」は、イスラエルに収監されているパレスチナ人234名の解放を要求した。イスラエルの首相ゴルダ・メイアはこの要求を拒否。交渉の末、西ドイツ当局と犯人グループは飛行機でエジプトの首都カイロへ脱出することで合意する。選手村からミュンヘン国際空港までは2機のヘリで移動し、その後は用意された飛行機に乗り移って国外に脱出する手筈であった。だがこれは表向きの話で、実際は空軍基地に移動させて犯人を狙撃し、人質を解放する計画だった。
ヘリが空軍基地に着陸し、犯人のうち2名が用意された飛行機を確認しヘリへ戻ろうとしたその時、狙撃手が発砲。犯人らはヘリコプター1機を手榴弾で破壊するなどして銃撃戦は長時間に及び、人質となった9名全員及び警察官1名が死亡するなど事件は最悪の結果で終結した。犯人側は8名のうち5名が射殺され、残りの3名は逃走を図るが逮捕された。だが、この3名は1972年10月29日のルフトハンザ機ハイジャック事件で解放されることになる。

(詳しくはこのへんのサイトで)
http://www.geocities.com/inazuma_jp/munhen.html
http://inri.client.jp/hexagon/floorA1F/a1f1805.html


映画はこの史実をかなり忠実に再現して進んでいく。主要な登場人物の顔を始め、70年代のファッションや髪型、街並みなども正確に再現している、んだろう。極めつけは事件の発生当初、当時のニュース映像と映画自体を完全にシンクロさせて再現しているシーン。さりげないけど、かなり凝った映像になっている。ここらへんはスピルバーグのこだわりか。

そう、この映画はユダヤ系のスピルバーグだからこそ撮りうる作品なのだろう。「シンドラーのリスト」(1993年)でナチスのホロコーストからユダヤ人を救った(とされる)ドイツ人を描き出し、自分がユダヤ系であることを周知の事実として意欲的にこのテーマを取り上げている。
映画の中でも、過去から連綿と続く戦乱によって祖国を追われたユダヤ人のために作られた国「イスラエル」と、そのためにまた祖国を追われた「パレスチナ人」の、お互い正解のない正当性の議論が展開される。正当性を主張するためにお互いの民族を傷つけ、暴力の連鎖が連綿と続く現実が、末端の市民レベルの目から突きつけられ、何ともはけ口のない気持ちが映画を観ていると充満してきます。

他国から明確な侵攻を受けた歴史が無く、平和ボケした日本人には、自民族の領土を奪われるとかいう概念そのものが欠落しているため、本当の意味でこの映画の意味や歴史的背景を理解することは困難なんだろうな。せいぜい、映画中でPLOの人間が言う「100年かかってもパレスチナ人はあきらめない」という執念に驚いたり、家族や自分を犠牲にしてまで自国の名誉を尊ぶ報復の根強さやその応酬に恐れを抱くことぐらいしかできないのだろうか。

映画そのものとして観ると…
主演のエリック・バナは、「トロイ」の頃の肉弾戦用マッチョボディから一転し、どこにでもいそうなインテリっぽい青年に変わっていました。とても暗殺を仕掛けたりするようなキャラじゃなく、お金の勘定でもやってそうな雰囲気です。気高い犠牲心と使命感から、ある程度クールに暗殺を遂行していく(けど、ピアノを習ってる女の子を巻き添えにしないところとかはちょっと…って感じ。ま、この辺が映画の脚本ですな)んだが、イスラエルでは英雄視されると共に逆に命を狙われる立場になり、自分がクローゼットに寝るハメになる。報復が報復を呼び、暗殺してもすぐその代わりが出現する現実に、次第に自分がやっていることの意味を失いかけ、ノイローゼ気味になっていく。その苦悩で頬もゲッソリ、顔色も悪くなっちゃう。熱演です。
仲間達もそれぞれ味を出していて、段々数が減っていくところとかは若干先読めできる展開ではあるが、ストーリーとしてはアリでしょう。派手な色を抑えた映像、「プライベート・ライアン」を彷彿とさせるリアルな音響はやはり迫力がありました。是非映画館で感じていただきたい。

しかし、このマジメな映画と、不真面目?な娯楽大作「宇宙戦争」をほぼ同時に撮れちゃうスピルバーグは、やっぱ天才なんでしょう。頭の切り替えだけでも大変だ。そういう意味で8点くらいあげます。重い映画には違いないですが、佳作の一つだと思います。観てみるとよいでしょう。
ラストシーン、主人公がいろんな意味で一人になってしまう場面の背景でかすかに映る、今は亡き世界貿易センタービル。やっぱそこにつながるんかいなって思わせるわなあ… ちょっと減点しました。

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31. アイランド(2006.1)

基本情報 製作:2005年 米国作品
上映時間:136分
監督:マイケル・ベイ(「パール・ハーバー」’01)
出演 リンカーン・6・エコー…ユアン・マクレガー(「ビッグ・フィッシュ」’03)
ジョーダン・2・デルタ…スカーレット・ヨハンソン(「ロスト・イン・トランスレーション」’03)
ローレント…ジャイモン・フンスー(「コンスタンティン」’05)
マッコード…スティーブ・ブシェミ(「ビッグ・フィッシュ」’03)
メリック…ショーン・ビーン(「ナショナル・トレジャー」’04)
解説 近未来。大気汚染から守られ、管理の行き届いた安全で快適なコミュニティで暮らすリンカーン。彼やその他の住人にとっての夢は、地上最後の楽園といわれる“アイランド”へ行くこと。そしてその抽選会が毎日のように行なわれていた。だがある日、リンカーンは換気口から入ってきた一匹の蛾を見て、ある疑念を抱く。やがて彼が独自に調査を進めるうち、自分たちは保険契約を結んだクライアントへ臓器を提供するために生かされているクローンで、“アイランド行き”の名の下に臓器を摘出される、という事実を知ってしまう…。

地球上には自分にそっくりな人が3〜4人はいるそうです。もしそれらの人がクローンだったらどうします? いや、自分がクローンだったら…

そういうことを想像させる映画ですね。完全に管理された世界で生きている人間が、とあることから自分の世界に疑問を持ち、あとはそれを解決するためにまっしぐら。「救世主」となって不遇の民たちを解放する、と。設定的にはよくありそうなもので、バイオテクノロジーの進化によって大量生産されるようになったクローンが、自らのアイデンティティを認識して反乱を起こす。人命の尊さを訴え、技術革新に対する警鐘を鳴らすという構図ですな。

ストーリー性の目新しさはほとんどない。細部を見てるとそれなりに突っ込みどころはあるし。電車やバイクが空を飛んでいるのに、自動車がタイヤ履いて普通に走っているのはなんで?とか、なるべく外の世界の知識を習得しないように育てられた人間が、いきなり空飛ぶバイク運転できたり普通に家で生活できているのはなぜ?とかね。

それよりね、この映画の見どころは「アクションシーンの迫力」でしょう。一つは高速道路でのカーチェイス。「マトリックス・リローデッド」の高速道路シーンも凄かったが、この映画のシーンはどちらかというとリアル度重視で、ど派手に“実写の”車を破壊しまくります。ま、車を破壊する方法とその物はかなり原始的で、これも「この時代にあるんかよ?」って突っ込みOKポイントですが。
もう一つ、超高層ビルの外壁にくっついてる大きい看板(「R」の形)に逃げた二人に追っ手が襲い掛かり、看板ごと二人がまっ逆さまに落ちていく(+ヘリコプターに激突…)シーン。CGとの合成なんだけど、ドキドキ感はかなりアップ。実際のヘリ部品を落としたりして、細部までリアル度にこだわっているのは監督の思いか。しかし、二人は工事現場にある、何だか良くわからない網?みたいなやつに落ちて助かっちゃうんだな。で、そこにいた作業員が「君たちは奇跡だ!」って。苦笑。

主演はユアン・マクレガー。「ビッグ・フィッシュ」「スターウォーズ新3部作」など、最近はハリウッドでも存在感のある役者になってきましたな。「華」という意味では若干地味目ではあるけども、確実な演技が見ていて安心感あります。「スターウォーズ」でアクションもバッチリ習得してきたので、本作でもキレのいい動きしてます。
もう一人はスカーレット・ヨハンソン。そう、「ロスト・イン・トランスレーション」のヒロインですな。少し顔が大人びてきて、かなり美人度アップしてます。アクション作品なので演技と言う演技はあまりしてないんだけどね。これからが楽しみです。そろそろメジャー女優の登竜門である「シャンプーのCM」に出てきそうな勢いです。

アクションとしてはまあ楽しめる作品で、テーマ自体も悪くは無い。開放されたクローン達はその後どういう運命を辿るのか? 主人公たちのように幸運で前向きな物語になるとは限らない。人間を金で売り買いするような世界にはいたくない、と思わせますが、クローンじゃなくてもそれが行われているのが今の世界。そこにまず目を向けて、そこから未来を語るべきかもしれません。
と言うことで、厳しめで7.5点

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30. SAW(ソウ)(2006.1)

基本情報 製作:2004年 米国作品
上映時間:103分
監督:ジェームズ・ワン(「ソウ2」’05)
出演 Dr. ゴードン…ケイリー・エルウィズ(「クレイドル・ウィル・ロック」’99)
タップ…ダニー・グローヴァー(「リーサル・ウェポン4」’98)
アリソン・ゴードン…モニカ・ポッター(「パッチ・アダムス」’98)
アダム…リー・ワネル(本作の脚本)
解説 薄汚れた広いバスルームで目を覚ました2人の男、ゴードンとアダム。彼らはそれぞれ対角線上の壁に足首を鎖で繋がれた状態でそこに閉じ込められていた。2人の間には拳銃で頭を撃ち抜かれた自殺死体が。ほかにはレコーダー、マイクロテープ、一発の銃弾、タバコ2本、着信専用携帯電話、そして2本のノコギリ。状況がまるで呑み込めず錯乱する2人に、「6時間以内に目の前の男を殺すか、2人とも死ぬかだ」というメッセージが告げられる…。その頃タップ刑事は“ジグソウ”を追っていた。ジグソウが仕掛ける残忍な“ゲーム”で次々と被害者が出ていたのだった…。

あ〜、こわ。怖い映画キライなんだよね… 「じゃ、借りてくんなよ」って? ごもっとも。

でも、上の「解説」にあるようなあらすじを知っちゃうと、メチャメチャ気になるじゃないですか。眠りから覚めたらあんな絶望的なシチュエーションに身を置かれ、でも脱出するヒントがそこかしこに散りばめられ、それを解決するパズル的な要素と、犯人推理のサスペンス… こういう感覚は、あのB級名作「CUBE」(1997)と、ブラピの「セブン」(1995)を思い出せます。ダニー・グローヴァー扮するタップ刑事が犯人を追い詰めるストーリーも並行して進むから、「CUBE」ほど閉鎖空間的な息苦しさも少ないし、「セブン」ほどのグロさも無い。少々目をつぶりたくなるようなシーンもありますがね。まあ、小心者の私でも許容範囲です。

鎖で繋がれた二人、最初は訳もわからず、お互い相手のことも知らなかったのだが、一つ一つヒントをクリアしてアイテム?をゲットしていくにつれて、彼らが偶然&無作為に拉致されたのではなく、明確な意思の元に選ばれた人間だったことがわかる。そうすると、お互い被害者として共通意識を持って「頑張ってここから抜け出そう!」という協力体勢から、次第に相手に対する不信感や苛立ちが増加していく。医者という立場で冷静に振舞っていたDr.ゴードンも、家族が関わるようになると途端に感情的になり、アダムとの関係をこじらせていく。二人しかいない環境なのに、その二人が衝突していくに従って、「こりゃ脱出するのは不可能だな」と思い始めます。

犯人像が固まってくると、ドラマは急展開を始めます。ラストへの約30分間はどんでん返しの連続。「なるほどね〜。え、でもウソ…」といううめき声が出ちゃいます。「こわいよー」っていううめきと、タイムリミットがだんだん近づいてくるという緊張感・焦りの声。言ってしまうとつまらないので言いませんが、極限状態に陥った人間の選択をあっさりと裏切ってしまう、監督(脚本)の意図が最後に衝撃的な答えを導き出します。

この脚本、繋がれた一方の若者、アダム役だったリー・ワネルという人のものだったんですね。でも、監督のジェームズ・ワンは長編初監督だし、他にもそんなに有名な俳優さんは出ていないし、かなりの低予算で作った映画ですな。唯一、「リーサル・ウェポン」シリーズでメル・ギブソンの相棒役だったダニー・グローバーくらいが有名なんでしょうか。
ま、映画は予算というよりストーリーとアイデアの戦いだから、低予算だからといってつまらないわけでもない。CGに金をかけて未来の姿を見せるのも良し、予算を掛けずにストーリーで見せる映画もいいもんです。

題名の「SAW」、「のこぎりで引く」って意味だし、アイテム?の中にも2つののこぎりが出てきたりして、勘の鋭い人なら想像したくないことも想像しちゃうでしょう。それが当たってるか当たってないか、ぜひビデオ鑑賞して確かめてくださいませ。
終わり方から読めるかもしれませんが、「SAW2」ができてるそうです。こういうジャンルの続編の成功はかなり難しいと思われます。誰か、観た方がいいとおっしゃる方、怖さ度が「1」を越えていないかを必ず確認して、アドバイスをください。

やっぱり怖かったので7.5点にさせていただきます。

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29. エターナル・サンシャイン(2006.1)

基本情報 製作:2004年 米国作品
上映時間:107分
監督:ミシェル・ゴンドリー(「ヒューマンネイチュア」’01)
出演 ジョエル・バリッシュ…ジム・キャリー(「ディック&ジェーン 復讐は最高!」’05)
クレメンタイン・クルシェンスキー…ケイト・ウィンスレット(「ネバーランド」’04)
メアリー…キルステン・ダンスト(「スパイダーマン2」’04)
スタン…マーク・ラファロ(「コラテラル」’04)
パトリック…イライジャ・ウッド(「ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還」’03)
解説 バレンタインデーを目前にしたある日、ジョエルは不思議な手紙を受け取った。そこには、最近ケンカ別れしてしまった恋人クレメンタインについてこう書かれていた。“クレメンタインはジョエルの記憶を全て消し去りました。今後、彼女の過去について絶対触れないようにお願いします。ラクーナ社”。仲直りしようと思っていた矢先にそんな知らせを受け、立ち直れないジョエル。そして彼も、彼女との記憶を消すことを決意し、ラクーナ医院を訪れる。そこでは、一晩寝ている間に脳の中の特定の記憶だけを消去できる施術を行なっていた…。

ジム・キャリーのヘンな顔は1シーンだけ。やっぱ「マスク」(1994)の印象が強すぎて、いつ顔の七変化を見せてくれるのかと妙な期待をして観てしまった。本人にとってはいい迷惑だ。

さてさて、最近は「24-TWENTY FOUR」を観るのに週末の大半を費やしていたのですが、とりあえず「シーズンU」まで制覇したところでいったん打ち止め。これ以上観てるといい映画が観られなくなってしまう!(ってより、TSU○AYAのレンタル半額が「シーズンU」までだからという切実な事情があったのがホンネ)。

久しぶりに選んだのが、2004年度アカデミー脚本賞(チャーリー・カウフマン)を受賞した本作。どう見てもお似合いには見えないカップルが、別れた後にお互いの記憶を消してしまおうとするんだけど、男の方だけ未練がましく「やっぱり止めたい〜!!」ってもがく映画?です。
何だか最近、こういう「記憶を失くす」というシチュエーションのドラマや映画が多いっすね。今話題になっている「私の頭の中の消しゴム」なんかは典型ですな。観てないけど。こういうストーリーは題名とかあらすじを読むと大体想像できちゃうんだけど、想像通りだったとしてもやはりそういうシチュエーションは観てて切ないわけで、予定調和の如く泣かせポイントで泣かせられちゃう人が多いんかな。観る人も半ばそれを期待して観たりしていて。「もっと泣かせてー!」って感じで。

でもこの映画は、「自ら記憶を消すことを志願する」ところが能動的でちょっと違うところです。人間、何十年も生きてると消したい記憶の一つや二つや三つや…(かなり続く)…つはあるもんです。それを怪しげな病院の怪しげな医者が、ピンポイントで消したい記憶だけを消してくれるという、ある種ファンタジックな話。これって結構我々の「ツボ」を押してくれるネタですね。僕らもできれば消してしまいたい記憶ってたくさんある。でも「ホントに消しちゃっていいの?」という問いかけが随所に見える。

ある人の記憶を消すということは、悲しい記憶だけでなく、楽しい瞬間の記憶も全て消してしまうことになる。消去作業を行っている間に、どんどん時が遡ってそういう「消したくない」記憶がフラッシュバックしてくると、男って弱いもんですねえ。そんな未練がましい男にジム・キャリー「トゥルーマン・ショー」(1998)から、若干シリアス目の作品も選ぶようになってますが、本作の役どころはシリアスそのもの。おとなしくて意気地の無い、平凡な男が突然の恋に舞い上がるも、すぐにその平凡さに飽きられて別れてしまう。こういう情けない男をやらせてもなかなか味がある。表情の演技も最小限。
彼女役は「タイタニック」(1997)のヒロイン、ケイト・ウィンスレット。もう30歳になるんですか。もっと若いと思ってた。「タイタニック」の時が21歳か、若いなあ… って、「タイタニック」からもう9年が経とうとするのにも少し驚き。奇抜な髪の色をしていますが、純粋でストレートな女の子って感じの演技で鮮明な印象。
脇役も豪華です。過去の不幸な記憶を消しちゃったちょっとかわいそうな役は「スパイダーマン」シリーズのキルステン・ダンストで、坊主の助手は「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズのイライジャ・ウッドです。若い人が多いですが、映画自体は落ち着いた印象。これは監督の手腕なんだろうけど、30代くらいの大人が観るにはちょうど良い雰囲気のような気がします。

映画の最初も含めて、時間軸が一時行ったり来たりするので、これは現在?過去?って少し考える場面もあるけど、ちゃんと終わりの方で「なるほどー」って把握できるはずですので、心配しないように。冒頭のシーン、冬の海の近くで二人が出会うんだけど、「記憶」を消去した二人が偶然会ったのではなく、消されていない記憶がわずかに残されていてそれに導かれるように出会ったんだと認識しました。そんな風に思わせてくれる、ちょっとハートウォーミングなこの映画に8点

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28. 24(TWENTY FOUR) シーズンT

基本情報 製作:2001年 米国作品
収録時間:1話60分・24話構成 全12巻 
原案・脚本・製作総指揮:ジョエル・サーノウ/ロバート・コクラン
出演 ジャック・バウアー…キーファー・サザーランド(「フォーン・ブース」’02)
テリー・バウアー…レスリー・ホープ(「コーリング」’02)
キム・バウアー…エリシャ・カスバート(「ラブ・アクチュアリー」’03)
ニーナ・マイヤーズ…サラ・クラーク(「72時間」’02)
パーマー上院議員…デニス・ヘイスバート(「メジャーリーグ3」’98)
トニー・アルメイダ…カルロス・バーナード
解説 深夜0時過ぎ、CTUロス支局チーフ、ジャック・バウアーに非常召集がかかった。大統領候補のパーマー上院議員の暗殺計画が発覚したのだ。山場は大統領予備選の今日、24時間。最悪なことに、事件にはCTUの人間が絡んでいるらしい。ジャックは上司ウォルシュの命を受け、内通者を探る単独捜査を開始する。一方、ジャックの妻テリーは、夜中に家を抜け出した娘キムを心配していた。キムと一緒にいる友人ジャネットの父アランから電話が入り、2人は深夜の街を捜しまわる。同じ頃、ロス郊外を飛行中の旅客機がモハーベ砂漠上空で消息を絶っていた……。

間違いなく、ハマります。観るのに勇気が必要です。このシリーズをちょっと観て途中でやめられる人は、よっぽど忙しいか自制心のある人か「小説は最初と最後だけ読むのでいいや」って人だけでしょう。

映画ではないのですが、とっても面白いし映画並みのクオリティがあるという独断で登場です。言わずと知れた米国の連続物テレビドラマ。最新作は「シーズンW」まで行ってますね。
「1日=24時間」の間に起こる事件を、その時間の流れ通り24時間のドラマにしたのが本作の最大の特徴。無鉄砲な主人公ジャック・バウアーの最も長い1日に、これでもかと事件・災厄・陰謀・裏切りその他諸々が降りかかる。先の展開が全く読めず、出てくる人間の誰もが怪しく見え、ジャック同様誰が味方なのかさっぱりわからない。映画と違うからド派手な爆破シーンやCGやらを使うわけではないけど、緊迫感溢れるシーンの連続や画面分割による効果的な心理描写など、連続ドラマだからこそできる丁寧なストーリーの作りこみが面白さを増幅させているんだな。時に行き過ぎて、「そんなのありか〜??」ってシーンも出てきたりするのも、ドラマを盛り上げるスパイスの一つだと思えば、一層引き込まれていくってもんです。

主人公のキーファー・サザーランド。最近映画ではパッとしませんでしたな。昔は「ヤングガン(1988)」や「ア・フュー・グッドメン(1992)」などで、若手性格俳優の先頭を走ってたのに、その後良作に恵まれず。ちょっと悪人顔だしな。ようやく「24」シリーズで復活を果たしました。他に、この「シーズンT」では懐かしいルー・ダイアモンド・フィリップス(「ヤングガン」で共演)やデニス・ホッパー(「スピード」(1994)の爆弾犯役)なんかがゲスト出演してます。

詳しいストーリーを言うと石が飛んできそうなので止めますが、最後までハラハラドキドキ度はアップしていきます。前半と後半で全く違うテーマが描かれる。結末は自分の目で確かめてね、と。絶対に後悔はしないと思うので、無理やりでも時間を作って観て下さい。寝不足になっても責任は負いませんけど。
残りの「シーズンU〜W」まで、24時間×3=72時間!! 1日4時間観ても18日かかるってことか。先は長いな…

映画じゃないので採点はしませんが、観ることを超強力におすすめします。

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27.Ray/レイ(2005.9)

基本情報 製作:2004年 米国作品
上映時間:152分
監督:テイラー・ハックフォード(「プルーフ・オブ・ライフ」’00)
出演 レイ・チャールズ…ジェイミー・フォックス(「コラテラル」’04)
デラ・ビー・ロビンソン…ケリー・ワシントン(「9デイズ」’02)
マージー・ヘンドリックス…レジーナ・キング(「エネミー・オブ・アメリカ」’98)
アーメット・アーティガン…カーティス・アームストロング
                       (「ジングル・オール・ザ・ウェイ」’96)
ジェフ・ブラウン…クリフトン・パウエル(「ラッシュアワー」’98)
解説 レイ・チャールズ・ロビンソンは、弟の溺死によりトラウマを背負い、9ヵ月後、視力を失うが、母は幼い彼を決して甘やかさなかった。1948年、17才でシアトルに出たレイは、「盲目の天才」と評判になる。やがてレイは、ゴスペルとR&Bを融合させた新しい音楽、ソウルを誕生させた。一方、名声の裏では複数の愛人、そして麻薬に手を出し、その生活は荒んでいく。1965年、麻薬の密輸で逮捕されたレイは、自ら厚生施設へ入り、薬を断ち切る決意をする。

さすがに「いとしのエリー」は流れませんでしたな。そこまで日本の観客へのサービスはありまへん。

2004年6月10日、惜しくも天に召された<盲目の天才ピアニスト><ソウル(魂)の神様>レイ・チャールズの伝記的映画でんがな!上体をのけぞらせ、首を振り、叩くように鍵盤を弾き歌うレイ・チャールズにクリソツな演技を披露した主演のジェイミー・フォックスがアカデミー主演男優賞を受賞した話題の映画です。

もう、本当にソックリです。よくここまでやれますねというくらい、歌っている時のシーンは完璧にプロのシンガーそのものである。ジェイミー・フォックス自身は3歳からピアノを始め、大学でも音楽を学び、この映画ではレイ・チャールズ自身に指名されて主演に選ばれ、まさに本人が乗り移ったような力みなぎる素晴らしい演技を見せています。プラス、歌! ライブやレコーディング以外のシーンは彼自身が歌っていて、つなぎとしても違和感なし。
ミュージシャンにありがちな愛人問題、ドラッグ、そして黒人差別に反対して故郷ジョージア州から演奏禁止を言い渡されるが、プレーヤーとしてのキャリアは順調に上がっていく中での葛藤などなど、今まで知らなかったレイ・チャールズの人間的側面が丁寧に描き出されていきます。

少年時代から大人になってからも、彼の成長に圧倒的な影響力を与えたのが、母親のアレサ・ロビンソン。貧しいながらも子供を厳しくしつけ、何よりも子供の成長を第一に考えた。彼のドラッグ中毒の遠因となった弟の溺死事故の後、一人になった息子レイが次第に緑内障のため視力を失い7歳で失明しても、愛情ある厳しい態度は変わることはなかった。「黒人」と「盲人」という二重の差別要因を抱えて生きていかねばならない息子に対し、「人の助けを期待するな。自分の足で立って歩いて行け」と言うのは母親として覚悟のいる言葉だ。母親を演じたシャロン・ウォレンという方、これが映画初出演だそうです。息子を失った時の熱演が記憶に残ります。

この映画、アカデミー賞ではもう一つ『音響賞』を獲得しています。ドラマの部分から、それをテーマにした楽曲に流れていくところなんかは、ちょっとミュージカル映画を観ているような絶妙な間と雰囲気を作り上げています。数々のヒット曲が生まれるエピソードを観ているようでかなり楽しいです。
そんなに彼の音楽には詳しくないけど、自然にリズムを取ってしまうようなカントリー、ジャズ、ゴスペルを基調にしたR&Bやソウル、ブルースなどの名曲がこれでもかと次々に流れる。「Georgia On My Mind」(これってカバー曲で、オリジナルは1931年ホーギー・カーマイケルって人の作曲なそうな)とか誰もが知ってるメジャー曲もあり。構成的にも優れた作品じゃないかな。

最初に若き日のクインシー・ジョーンズが出てきて、おっ!と思わせるけど、彼はその後最後の方でちびっと出てきたくらいで、あれは彼に対するサービスショット?? 映画は1979年、ジョージア州が正式に彼に謝罪し、彼の歌を州歌に認定するところまでで終わり。その後、様々なアーティストとデュエットしたり、生涯で1万回以上に及ぶライブを精力的に行ったりと、音楽界に多大な貢献を果たしたわけです。
人は失って初めて、その人の偉大さに気づくものです。ビリー・ジョエルやエリック・クラプトンなどとデュエットした名曲はNever Come Back。この映画のサントラや、昨年ノラ・ジョーンズとデュエットしてグラミー賞を獲得した「Here We Go Again」とかを聞いて、改めて偉大さを噛み締めることにしよう。8点です。

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26.スター・ウォーズ エピソード3/シスの復讐(2005.9)

基本情報 製作:2005年 米国作品
上映時間:141分
監督:ジョージ・ルーカス(「スター・ウォーズ エピソード2/クローンの攻撃」’02)
出演 オビ=ワン・ケノービ…ユアン・マクレガー(「アイランド」’05)
パドメ・アミダラ…ナタリー・ポートマン(「クローサー」’04)
アナキン・スカイウォーカー…ヘイデン・クリステンセン(「ニュースの天才」’03)
パルパティーン議長…イアン・マクディアミッド(「スリーピー・ホロウ」’99)
メイス・ウィンドゥ…サミュエル・L・ジャクソン(「キル・ビル VoL.2」’04)
ドゥークー伯爵…クリストファー・リー(「クリムゾン・リバー2」’04)
解説 クローン大戦の勃発から3年、戦争自体は終結に向かっていたものの、依然としてジェダイの騎士団と分離主義者たちとの戦闘は各地で繰り広げられていた。そんな中、パルパティーン最高議長がドゥークー伯爵によって誘拐される事件が発生。しかしオビ=ワン・ケノービとアナキン・スカイウォーカーの活躍によってパルパティーンは無事救出される。心の弱さを克服できないアナキンは、パルパティーンの真の狙いに気づかないまま、次第にオビ=ワンよりもパルパティーンに心を許すようになっていく。一方、そんなアナキンに不安を抱くパドメのお腹には彼の子の命が宿っていた。

ホントに終わりなの?? もともとスター・ウォーズは9部構成になっていて、今回はエピソード3。これで1から6までつながったから、後はエピソード7から9まで残ってるんだけど、ジョージ・ルーカス曰く、「ほかの作品も作りたい」だと・・・ そんなんでいいんかい!! どうせなら最後まで見せてちょうだいよ。

1977年公開の第1作「エピソード4/新たなる希望」(映画の題は単純に「スター・ウォーズ」のみ)から実に28年!! 観るものを興奮と熱狂の渦に巻き込んだ映画史上に残る壮大なスペース・オペラの(一応)完結編である。
このシリーズは個人的に思い入れの強い人が多かろう。かく言う私も、初めて一人で観に行った映画が「エピソード6/ジェダイの復讐」(1983年)であり、迫力のある映像・音に度肝を抜かれ、4から5を含めて何回も観直した思い出がある。もうあれから20年以上か… 「少年老い易く…」のフレーズがこだまする。

順番的には全く逆の今回の3部作。はっきり言って、エピソード1から3の最重要ネタは、「ダース・ベイダーはいかにして生まれたか?」なのである。ので、「エピソード1/ファントム・メナス」(1999年)は、「6」の時から今までにCGはこんなに進化しましたー!って感じのイメージビデオみたいだったし、「エピソード2/クローンの攻撃」(2002年)は見た目は成長したアナキンの子供っぽさと、よぼよぼ(のイメージしかない)ヨーダがぴょんぴょん跳ねて戦うシーンに笑っちゃった。結果的には、大いなる「つなぎ」の2作があって、「エピソード3」の完成度が高まったと思うべきか。何やかんや言っても全部映画館で観たしね。

冒頭のあのテーマソング。奥に消えていくスクリプト。わかってても、やはり映画に対する期待と高揚感をいやがおうに高まらせてくれる。
直後に続く宇宙でのバトル! 同じようなシーンは何回も観ているはずなのに、この映像はとんでもなく凄い!! アナキンとオビ=ワンの乗る船を長回しのカメラで延々と追い続け、巨大戦艦の間をすり抜け無数の戦闘機が飛び交い戦うシーンのスピード感と言ったら!! 前に観た「宇宙戦争」のCGが凄いと言いましたが、軽く撤回します。この作品のCGは史上最高でしょう。息をするのも忘れるくらい畳み掛ける。臨場感とかリアルとかいう陳腐な単語では表現しきれない。芸術作品とでも言おうか。
その後、オビ=ワンがでっかいトカゲみたいなのに乗ってグリーバス将軍と戦うシーンや、惑星に作られた都市や自然の映像、最後のアナキンとオビ=ワンの戦いなど、最後だから気合と金かけてるなーと感心するような映像の連続です。

本作の主役、前半はR2-D2で、中盤からはオビ=ワンでしょうか。R2、ピロピロしか言えない?んだけど、悲鳴?を上げたり考えてる時の声?がそれっぽくて笑える。片やC-3PO、完全にお荷物キャラになってます。
オビ=ワン、乗り物は相変わらず弱いけど、ジェダイマスターからの信頼も厚く、強く、行動力溢れるアニキキャラで活躍しています。ユアン・マクレガーは、1作ごとにマスターとして精神的にも成長していくこの役を好演しています。
対して、アナキン。ダークサイドに落ちていく過程が最大のテーマだったのに… 簡単に落ちすぎ。原因は「夢」だけ? 欲望のままに行動しているとしか思えない。だからこそ簡単に議長の手にかかったっとも言えるんだけど。彼の精神的な弱さを知ってか知らずか、ジェダイ達はこの年まで「選ばれし者」として育ててしまった。ジェダイの滅亡は、彼ら自身の見極めの弱さもあったと言わざるを得んな。
決着をつけるときにオビ=ワンが、「弟だと思って鍛えてきたのに…」と嘆く。ボロボロになったアナキンにとどめを刺さず、去っていく。この2人の関係、「4」まで続く重要なシーン。感動的であり、切なくなる場面であった。そして、神々しいまでのダース・ベイダー誕生シーン。おたくな方はこれを観て「死んでもいい!」って思うことでしょう。

この作品、「4」へのつなぎとしてもよく出来ていると思う。「ルーク・スカイウォーカー」と「レイア姫」の誕生(名前が出てくるのはちょっと唐突か…)。「6」でマスクを取ったダース・ベイダー(=アナキン)の衝撃的な素顔の原因。パドメの最後の言葉「アナキンには良心が残っている…」の意味は、「6」につながるし。帝国軍の軍服がいきなり「4」バージョンの古めかしいのに変わってたり。建造中のデス・スターが映ってたり。「チューバッカ」が出てきたり。きりがないなー。また「4」から観たくなった。

しかし、寂しいね。本当に終わりなのね。間違いなく青春の1ページを彩った、愛すべきシリーズ。テレビで再放送するたびにその味を噛み締めるとするか。そんなセンチな気持ちにしてくれる、この映画に8.5点

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25.宇宙戦争(2005.7)

基本情報 製作:2005年 米国作品
上映時間:114分
監督:スティーブン・スピルバーグ(「ターミナル」’04)
出演 レイ・フェリエ…トム・クルーズ(「コラテラル」’04)
レイチェル・フェリエ…ダコタ・ファニング(「I am Sam」’01)
ロビー・フェリエ…ジャスティン・チャットウィン(「テイキング・ライブス」’04)
メアリー・アン…ミランダ・オットー(「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズ)
オギルビー…ティム・ロビンス(「ミスティック・リバー」’03)
解説 ニュージャージーに暮らすレイは労働者階級のごく平凡な男。別れた妻との間には息子のロビーと娘レイチェルがいた。そして子どもたちとの面会の日、晴天だった空が突如不気味な黒い雲に覆われると、吹き荒れる強風の中、激しい稲光が地上に達し、地面に巨大な穴を開ける。すると大地が震え、地中で何者かが激しくうごめき始めたのだった。その光景を呆然と見つめていたレイ。町が次々と破壊され、人々がパニックに陥る中、レイは子どもたちのもとへ駆けつけ、彼らを守るため懸命に奔走するのだった。

大阪人、強いらしいです(^0^)。さすが、野球でも常に「強いもの(≒巨人)」を目の仇にして戦いを挑むからなあ。宇宙船の1つや2つ、屁でも無いわ! どうやって戦ったんか全然わからんけど。皆さん、いつか宇宙人が地球を襲ってきたら、とりあえず大阪に移動しましょう。生き残る可能性は高そう。

原作はH・G・ウェルズの『The War of the Worlds』(1898年)。100年以上も前に「タイムマシン」とか「透明人間」とか、今でもテーマになるSFの要素を小説化した偉大な作家ですな。1938年、ラジオドラマで本作が放送され(しゃべったのは『市民ケーン』のオーソン・ウェルズ23歳)、“臨時ニュース”として「火星人襲撃!」を伝えると、本当のニュースと勘違いした米国民100万人が避難した、というのは有名な話。(こちらに詳細あり http://www.tampopo.info/45/kaseijin45.htm)
1953年に映画化され、50年以上を経てスピルバーグがリメイク。ちなみに「1953年版」で主演したジーン・バリーとアン・ロビンソンというお二人が最後の最後に登場します、って後で知りましたが。

ストーリーは、原作を読んでなくても何となくわかりますね。突然宇宙人が襲撃してきて、最初はなす術なく逃げるだけなんだけど、ある時反撃する方法を見つけて、最後はやっつける! 簡単です。
この映画は、ストーリーなんかじゃなくて圧倒的な「音」「C.G.」を堪能する映画なのです。落ちまくる雷の振動。地中から宇宙船「トライポッド」が出現してレーザービーム?を照射し、都市を破壊しまくり人々を灰にしてしまう映像と音。地面が割れ、建物や高速道路が一瞬で木っ端微塵に吹き飛ばされる。恐ろしいまでの破壊映像の迫力!すごすぎる映像にマジで圧倒されます。これほど完璧なCGはなかなかお目にかかれません。さすがスピルバーグとうならせます。
この最初の「動」の部分と、中盤に隠れた家で宇宙人の探索(カメラ付きタコの足みたいなやつ)から逃れる「静」の部分の対比を際立たせ、違った種類の恐怖を味あわせる流れは良い。スターウォーズに出てくるライトセーバーの「ブウォォォォン」って音をちょっと低くして10倍くらい大きくしたような、トライポッドが唸る声?が不気味。だんだん観てる方も、あの音を聞くだけでビクって緊張するようになる。

主役のトム・クルーズ、笑っちゃうくらいのダメダメ親父でした。妻に離婚され、息子と娘も取り上げられ、たまの面会の時も三人とすれ違いの会話ばかり。港湾労働者の役で、コンテナ運ばせたら超有能なのに、家と家族のことはからきしダメの、画に描いたような仕事人間。息子からは名前で呼ばれちゃってるし、娘のアレルギーも歌ってあげる子守唄も知らない。家はゴミ?だらけで料理も作れない。身につまされること多数な人が多いでしょう。
だから、スーパーマン的な活躍はありません。基本は、逃げる。その合間に、家族のことを何一つ知らなかったことを否応なく感じざるを得ず、そのことに悩みながらも家族を守るため困難に立ち向かう。息子とキャッチボールをするシーン、娘に子守唄を歌えなかったシーン、子供をお持ちの方なら、感じることは多いはず。

その他。娘役のダコタ・ファニング。叫び声がこだまします。演技もなかなか堂々としてます。ハリウッドで今一番有望な子役なのでしょう。イカれ気味の不気味な男で名優ティム・ロビンスが出演。ちょっと太った?可哀相な役なんだけど、今一つ映画の中での役割が明確にされていない中途半端な出演。ナレーションはモーガン・フリーマンでした。

映画全体の雰囲気は、自分的にはA級というより「B+級」という感じを受けた。奇をてらった演出ではなく、宇宙人の圧倒的な強さと残虐さ、パニックになった人々の恐ろしさ、家族の絆、などごく普通に描かれている。恐らく「インディペンデンス・デイ」と比べられるだろうが、あちらよりもっと地味(CGは数倍素晴らしいけど)で、暗めである。
ただ、オチ的にはどうかと… あっさりしすぎじゃない? あんなめちゃめちゃ強い宇宙船にしては、簡単すぎっすよ。そんな環境なの地球って?そんな環境で僕達は生きてるのって? メッセージ性はありますが、突っ込み所も多い。
ただ、映画館で観るべきだとは言えます。7.5点くらいでしょうねえ。

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24.ターミナル(2005.7)

基本情報 製作:2004年 米国作品
上映時間:129分
監督:スティーブン・スピルバーグ(「マイノリティ・リポート」’02)
出演 ビクター・ナボルスキー…トム・ハンクス(「レディ・キラーズ」’04)
アメリア・ウォーレン…キャサリン・ゼタ=ジョーンズ(「オーシャンズ12」’04)
フランク・ディクソン…スタンリー・トゥッチ(「ザ・コア」’03)
エンリケ・クルズ…ディエゴ・ルナ(「クリミナル」’04)
グプタ…クマール・パラーナ(「ザ・ロイヤル・テネンバウムズ」’01)
解説 ニューヨーク、JFK国際空港。ビクター・ナボルスキーは、東欧のクラコウジアという小国からある大事な約束を果たすためにやって来た。だが、いざ入国しようとした矢先、彼の国でクーデターが発生し、事実上国家が消滅してしまう。これによってパスポートが無効となった彼は、アメリカへの入国を拒否され、情勢が安定するまでは帰国することもできず、空港内に完全に足止めされてしまう。英語も分からず金も持っていない彼は、やむを得ずこのターミナルの中で寝起きしながら事態が改善するのを待つのだったが…。

手に職を持つ人は強い。現金を持ってないビクターが空港で稼ぐ手段。祖国クラコウジアで生業にしてると思われる建設現場職人の技を武器に、実力で定職に就き収入を確保する。Excelとしゃべりで仕事するサラリーマンは確実に飢え死にするな。今のうちに身の振り方を考えるか・・・ でも最も重要なのは、ピンチをチャンスに変えるアイデアと実行力なんだけどね、ってこの映画は教えてくれます。

日本での宣伝の仕方は「泣ける感動作!」って感じだったけど、観た感覚からすると「ファンタジックなコメディ」って方がしっくりくるなあ。英語がほとんど分からない役のトム・ハンクスの演技、こういう天然ボケ系コミカルキャラはこの人の独壇場ですな。言葉が分からないから、最初は誤解と誤訳のオンパレード。それが結果オーライだったりするのが読めちゃうけどね。
謎の「クラコウジア語?」を操り、薬の不法所持容疑で捕まった同胞(に近い人)の窮地を救う。相手のロシア語っぽい会話に合わせ、何とかして無事に帰らせようとする真摯な姿。本当に自然な演技だ。この人の場合、演技なのか素なのか、今一はっきりしない。けど、過去にあと1人しかいない2年連続アカデミー主演男優賞ホルダー。自然に見えるほど、演技が素晴らしいってことで。

最初はうさん臭く見ていた空港の職員達は、言葉が通じにくい代わりに誠実な態度で自分を表現しようとするビクターの味方をし始める。何となく面倒を見てあげずにいられなくなり、逆にお願い事までしてしまう。「危険人物」扱いから、「何となく面白いヤツ」→「実はユーモアがあって仕事もできる」と変遷していく周囲の評価は、まあ予想通りのハリウッド的アメリカの懐の深さか。ここでも味方にしていくのは、頭のお堅い役人さんたちではなく、清掃人や機内食サービス担当といった、いわば裏方的な人達なんですね。この辺の作り方、観客も味方にしていくのは上手いとしか言えないなあ。

そんなビクターに絡んでくるのが、キャサリン・ゼタ=ジョーンズ演じるスッチー(死語、だけど字幕もスッチーやったで)のアメリア。役上は39歳ってなってたけど、本当は35歳。誰かと同い年だ。ちなみにダンナはあの不良中年?マイケル・ダグラスだって。
前に観た「シカゴ」では歌って踊って大活躍でしたが、本作では不倫中の寂しいキャリアウーマン。その心の隙間を喪黒福造じゃなくてビクターが埋める、のか?と思いきや、どうも中途半端な絡み方。ちょっと躁鬱気味で面白いキャラではあるんだけど、ストーリー上はそんなに重要な役柄ではない。無理やりロマンチックな場面を入れてみたって感じ。

サブタイトルにある「空港で彼は何かを待っていた」ってフレーズは、彼=ビクターだけでなく、周囲にいるキャラも何かを待って暮らしているという設定がオーバーラップしている。けど、ラスト近くで、「お父さん」とか「ジャズ」とかのネタが締めくくりとして用意されている必然性が、どれくらいこの映画で重要性を持っているのか、少し疑問。トム・ハンクスの演技が印象強くて、「あー良かったね」という印象で終わる可能性大。泣ける、かなあ?だから、7.5点にします。厳しい?

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23.コラテラル(2005.6)

基本情報 製作:2004年 米国作品
上映時間:120分
監督:マイケル・マン(「ALI アリ」’01)
出演 ヴィンセント…トム・クルーズ(「スペース カウボーイ」’00)
マックス…ジェイミー・フォックス(「Ray/ レイ」’04)
アニー…ジェイダ・ピンケット・スミス(「マトリックス」シリーズ)
ファニング…マーク・ラファロ(「エターナル・サンシャイン」’04)
解説 ロサンゼルスでタクシー運転手を12年間勤めながら平凡な毎日を送っているマックス。ある晩、アニーという名の女性検事を乗せいい雰囲気なり、名刺までもらって上機嫌のマックス。次に乗せたのはヴィンセントと名乗る男。多額のチップと引き換えに一晩の専属ドライバーとなり、今夜中に5箇所を回るようマックスに依頼する。しかしヴィンセントの正体はプロの殺し屋。麻薬組織から5名の殺害を請け負っていたのだった。そうとは知らず最初の目的地に着いた後もそのまま彼の帰りを待つマックスだったが…。

トム・クルーズ、笑いません。いつもの超爽やかな笑顔は封印し、淡々と殺人という仕事を遂行するマシーンに変身してます。アタッシュケースを片手に、モバイルでスケジュールを確認するが如くきっちりと計画通りに抹殺する殺し屋には、笑い皺は似合いませんな。この冷酷な殺し屋と、たまたま彼を乗せてしまったタクシードライバーのコラテラルな一夜(訳では『巻き添え』になってた)を、緊張感みなぎる映像で見せる映画です。ちなみに「collateral」って金融的には『担保物件』って意味なんだよなあ・・・いかん、職業病だ。

骨のある男っぽいドラマだなあと思ったら、監督はマイケル・マンでして。主な作品は「ラスト・オブ・モヒカン」(1992)、「ヒート」(1995)、「ALI アリ」(2001)などなど・・・ 「なーるほど」って感じの題名。いずれも男らしい骨太の主人公を選んだ、ヒューマンなドラマ物を数多く監督している人です。
最初にタクシーで空港からロスのダウンタウンへ向かう場面。タクシーの中の人間らしい会話と、無機質で機械的で無国籍的なロスの市街地を対比しながら見せるシーンがしばらく続く。もちろんライトとかはきれいなんだけど、その後に展開される怖さも少し匂わせるような憎い撮影でした。
タクシードライバーで今回の超不幸な巻き込まれ役にはジェイミー・フォックス、37歳。この作品でアカデミー助演男優賞、クリソツなレイ・チャールズを演じた「Ray/レイ」で主演男優賞にもダブルでノミネートされ、主演男優賞を獲得。ヴィンセントに無理やり殺人ツアーの運転手をさせられ、理不尽な行動におびえながらも徐々に自分で局面を打破する方法を考え始め、行動に移していく。と書くとありがちなストーリー展開になるとこだが、このマックスがなぜタクシードライバーなのか?、家族は?、夢は?という視点で、さらに深く彼の内面を描いているため、二人の関係がより濃密になっていく。夢を現実に移せないマックスの心の中を見透かしたように、現実を意地悪に叩きつけるヴィンセント。心の中を代弁されたかのように、何も言い返せないマックス。ほとんどの人は夢が夢で終わる、そんなどこにでもいそうなキャラを演じているところが我々庶民には感じるところが多い。

トム・クルーズ、この作品でアカデミー賞を狙っていたと言われています。確かに、今までに無い白髪交じりのサラリーマンみたいな外見、どこか遠くを見つめるような目線、冷静で残酷で腕も頭も良い殺し屋役。
でもねえ、やっぱ今まで僕達に植え付けられた「明るいキャラ」は簡単に取れないね。マジメに演技してるんだけど、どこかでオチがあるんじゃないかとか笑いを取る場面があるんじゃないかとか、本人にとっちゃハタ迷惑な期待を抱いちゃうわけです。イメージって恐ろしい。
途中から主役が完全にマックスに変わる。どうやってこの危機を乗り越えるんだろう?ってね。相手が悪かった、か。

最初と最後の方に出てくる女性、どこかで見たことが…って思ったら、エンドロールを見てやはり「マトリックス」シリーズでナイオビ船長役で活躍したジェイダ・ピンケット・スミスさんでした。ウィル・スミスの奥さんだったりします。おっと、ファミリーネームが同じだ。
今回は闘いません。逃げます 笑。

やっぱり殺しちゃう? やっぱり・・・っていうシーンとか、マックスがヴィンセントのふりをするシーンなど、緊迫した汗かき気味のストーリー展開はそれなりに楽しめます。けど、殺人者が同乗者なんてシチュエーションはなかなか無いわけで、あんなに冷静に会話とかできるもんなのか?殺人が日常茶飯事のアメリカ西海岸だから、最後に反撃してあんななっちゃうのも許される?ドラマ性の高さと、確実にその背後にある犯罪社会の恐ろしさが日本人的には理解が難しい。ということで、辛めで7.5点にいたします。

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22.ミリオンダラー・ベイビー(2005.6)

基本情報 製作:2004年 米国作品
上映時間:133分
監督:クリント・イーストウッド(「ミスティック・リバー」’03)
出演 フランキー・ダン…クリント・イーストウッド(「スペース カウボーイ」’00)
マギー・フィッツジェラルド…ヒラリー・スワンク(「ボーイス・ドント・クライ」’99)
スクラップ…モーガン・フリーマン(「ブルース・オールマイティ」’03)
解説 ロサンジェルスで小さなボクシング・ジムを営む老トレーナー、フランキー。その指導力に疑いのない彼だったが、選手を大切に育てるあまり、成功を急ぐ優秀なボクサーは彼のもとを去ってしまう。そんなある日、31歳になる女性マギーがジムの門を叩き、フランキーに弟子入りを志願する。不遇の人生を送ってきた彼女は、唯一誇れるボクシングの才能に最後の望みを託したのだが、頑固なフランキーは、“女性ボクサーは取らない”のひと言ですげなく追い返してしまう。それでも諦めずジムに通い、ひとり黙々と練習を続けるマギー。フランキーの唯一の親友スクラップはそんなマギーの素質と根性を見抜き、目をかける。やがてマギーの執念が勝ち、フランキーはついにトレーナーを引き受けるのだが…。

この映画をご覧になるつもりの方、これは読まない方がよろしい。基本的に事前情報を仕入れてから観る方ではないので、この映画も「アカデミー賞4部門受賞!」とか、「老トレーナーと女性ボクサーの話」くらいの予備知識しかなかった。よく映画館でも、始まる前にパンフ買って読んでる人いるよね。あれ、信じられまへん。
途中までは、「ロッキー」の如くハングリーな女性ボクサーのサクセスストーリーが、テンポ良くユーモアを交えながら進んでいって、ありがちなストーリー展開になりかけるところが… ああ、あんな恐ろしいことがあっていいのでしょうか? 言いたいけど、言えない。

クリント・イーストウッド。75歳。昨年のアカデミー賞では、監督した「ミスティック・リバー」が作品賞・監督賞などにノミネートされましたが、相手が悪く「ロード・オブ・ザ・リング 王の帰還」に持って行かれました(主演男優賞:ショーン・ペン、助演男優賞:ティム・ロビンスは受賞)。今年は見事雪辱を果たし、主要4部門(作品賞・監督賞・主演女優賞・助演男優賞)を受賞!
さすがに75歳ですから、演技かもしれんけど動きにちょっとヨボヨボ感が見られる。若者とスパーリングしてるときなんか、どう見ても若者が手加減しているのが見て取れる。どっちが相手してあげてんのか良く分からん。でもあの体つき、ちゃんと鍛えてるんだろうなと思うほど堂々としている。
それに比べ、モーガン・フリーマンは、お腹もちょっと出気味でおじさん体系そのもの。でもいざとなったら強い強い。片目でも相手の歯を折るくらいのハードパンチを繰り出せます。ストーリーは彼の渋いナレーションと、友人のフランクを支える頑固な友情を脇役にして、陰影濃く進んでいきます。本当、この人は精力的に映画に出ますね。この10年で20作品くらいに出ている。B級物から超A級物まで、無くてはならない俳優さんですな。

ヒラリー・スワンク。「ベスト・キッド4」(懐かしい・・・)なんて映画に出てから、10年余りで2回目のオスカー受賞。1999年の「ボーイズ・ドント・クライ」では、性同一性障害を持つ主人公という難しい役柄で受賞したが、今回も全てのボクシングシーンを自らこなすほど鍛え上げ、体当たりの演技を見せている。ちょっと強めの相手と戦って鼻を折られ、フランクに自ら命令?してつまんでグリグリ修正させたり、その後両方の鼻の穴に綿棒突っ込まれて薬塗られたり… 観る者の横隔膜を引き上げる?ようなシーンもあるので、苦手な人はご注意。
家庭的に恵まれず、13歳からウェイトレスをして生計を立て、残り物をこっそり持って帰って晩飯にする。(父親を除く)家族がこれまたで、せっかく稼いで家を買ってあげたのに、「生活保護がもらえなくなるから、家より金よこせ」なんて言ってしまう。深く悲しい過去を持っているはずなのに、「ボクシングを自分から取ると何も無い」とポジティブなエネルギーに変換し、練習に打ち込む姿。どこまでも素直で、ひたむきで、フランクを全面的に信じるマギーの姿が、美しい。
そんなマギーの姿に次第に心を動かされ、嫌々ながらトレーニングを始めるフランクだが、自らも娘と疎遠になりスクラップ以外に親しい人間もいないこともあり、あれこれ世話を焼かされるうちに「娘」に近い感情を抱いていく。ぶっきらぼうだが、優しさもある。マギーも「父親」の姿を重ねたのだろう。

順調に成功の階段を駆け上がり、それぞれの人間関係もひと段落したと思いきや、突然の事故により180度世界が変わる。あの最悪の「青い熊」のおかげで… ほんと、こいつとマギーの母親の存在は、胃がムカムカするほどやりきれない。このシーン、映画館の全ての人の息が一瞬止まったように思う。
ここからがこの映画の本当のストーリーかもしれん。フランクは「マギーを押し付けたスクラップのせいだ」となじり、一方でマギーの将来を考えて悩み、苦しむ。マギーは誰のせいだとも言わず、フランクに謝ってくれというくらい、健気だ。哀しみをたくさん湛えながら明るく振舞うマギー、ヒラリー・スワンクの演技は本当に素晴らしい。
フランクのマギーを見つめる目は、前半のトレーナーとしての見方ではなく、紛れもなく「父親」としての優しい眼差しに変わっていた。フランクは献身的にマギーの看病をし、治療できる医者を全米中で探そうとする。家族に裏切られ、唯一信じられるのはフランクだけなのに、彼を苦しませたくないとマギーも悩む。二人は、お互いを愛するがために、決断することになる。

もー、ここから先は言えません。ご自分で観てください。「愛」「友情」「家族」そして「人間の尊厳」とは、「人生の目的はいつ達成され、そして終わるのか」… いくつもの思い、問いかけ、感情が交錯し、上手くこの映画を表現することができません。そしてマギーのリングネーム?になった「モ・クシュラ」の意味・・・ 
見終わった後はとてつもなく重い雰囲気が支配しますが、不思議とその後は温かい気持ちがどこからともなく湧いてくるような、そんな映画でしょうか。当然ラストは賛否両論あるし、答えはそれぞれで違うと思うけど、その根底にある「愛情」を感じられれば、この映画を観て良かったと思えるかな。この映画は、それを言いたかったんだろうから。
ゲール語の「モ・クシュラ」や「フィッツジェラルド」の苗字、バグパイプが出てくるとこなど、アイリッシュの空気が色濃く流れています。世界史に詳しい人は、こういう点も背景として認識しているとより楽しめます。
音楽もクリント・イーストウッドがやってます。アコギやピアノ中心で、静かな音楽が心に沁みてきます。
オトナの映画です。この映画評なんかを読んで判断するより、自分で観に行って感じることをお勧めします。8.5点

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21.ナショナル・トレジャー(2005.4)

基本情報 製作:2004年 米国作品
上映時間:131分
監督:ジョン・タートルトーブ(「フェノミナン」’96)
出演 ベン・ゲイツ…ニコラス・ケイジ(「ウィンド トーカーズ」’02)
アビゲイル・チェイス博士…ダイアン・クルーガー(「トロイ」’04)
パトリック・ヘンリー・ゲイツ…ジョン・ヴォイト(「パール・ハーバー」’01)
イアン・ハウ…ショーン・ビーン(「ロード・オブ・ザ・リング」’01)
セダスキー…ハーヴェイ・カイテル(「U571」’00)
解説 歴史学者にして冒険家のベン・ゲイツ。彼は何世代にも渡るゲイツ家の夢を継ぎ、ある伝説の秘宝を追い求めていた。だがその秘宝は1779年、独立戦争の真っ只中のアメリカで忽然と消えてしまう。ベンは、合衆国独立宣言書に署名した最後の生存者がベンの先祖に残した“秘密はシャーロットが握っている”という謎の言葉を唯一の手掛かりに、相棒の天才ハッカー、ライリーとその謎を探る。やがて、それは独立戦争時に消息を絶ったある船の名前と判明するのだが…。

ニコラス・ケイジ、41歳。見た目は40代後半かなと思わせますが、意外と若い。しかしいつも困ったような眉毛といい、幸薄そうな表情といい、トップスターの押し出しというか存在感はあんまりないわな。けどそんなとこが、親近感を持たせる意味でも好印象なんです。
しかーし、幸薄そうな外見(しつこい…)とは裏腹に、ご親族関係はかなり豪華絢爛です。叔父は「ゴッドファーザー」シリーズのフランシス・フォード・コッポラ、ってことは従姉妹は「ロスト・イン・トランスレーション」監督のソフィア・コッポラ、叔母は「ロッキー」シリーズでスタローンの妻役だったタリア・シャイア、最初の妻がパトリシア・アークエットで2番目が一時期マイケル・ジャクソンの妻だったプレスリーの娘リサ・マリー・プレスリーだったり…でも3ヶ月で離婚しちゃったり…。忙しい人だ。けど、間違いなく単独でもハリウッドのヒットメーカーの一人でしょう。

さて、最近は頭使ったりハートが重かったりする映画が多かったので、無心で何も考えずに観られるアクション系を久しぶりに映画館で観ようと、これをチョイス。「ザ・ロック」のようなアクション巨編!をなんとなく想像してたけど、出来上がりは「前半=ミッション・インポッシブル風、後半=インディ・ジョーンズ風」のストーリー展開でした。裏切ったイアンに独立宣言書を盗まれるのを阻止する(先に盗む?)ため、ワシントンD.C.の国立公文書館に潜入する。「ミッション…」と違うのは、ここに敵役も同じものを同時に狙っているというストーリーを入れたこと。これにより、緊迫感を倍増させ、手に汗握る楽しいシーンになっております。たった二人で国宝級のそれこそお宝を盗み出せてしまう、かなりなお間抜けぶりですが、これを見て政府関係者は大事なものを保管してるところに、少なくとも1人は警備員を配置することでしょう。

後半、ある場所の地下にその財宝が埋まっていることを突き止めるまで。立て板に水の如く展開される推理。それらがことごとく的中してしまう。ゲイツ一家が束になって何十年掛けても分からなかった場所を2時間で明らかにしなければならないから、大変だ。まあ、こういう謎解き映画にはある程度予想される展開だから、許してあげよう。それよりその卓抜した推理力を、そうやな、徳川埋蔵金を必死こいて探している人々(あるいはテレビ局の人達)に提供してあげてよ。そしたら無駄に山を掘り返したりしなくていいし、環境保護団体からも喜ばれるでしょう。

スケール大きそうな宣伝に惑わされて少し不満気味ですが、所詮「ナショナル」=アメリカの財宝探しなので、「インディ…」などと比べるとかなりスケールダウンする。基本はワシントン・ニューヨークあたりの出来事なので、どうも箱庭的な移動距離の短さが印象に残ってしまう。「こんな身近にあったの?」みたいな感覚。ま、灯台下暗し(ちなみに英語では“The lighthouse does not shine on its base.”)という言葉もあるし、一般人は気づかないところに気づくのが「天才歴史学者」だからいいのか。
博士役のダイアン・クルーガー、きれいだしどっかで見たなと思ったら、「トロイ」で駆け落ちした王妃役をやってましたね。これからもどんどん出てくるんでしょうな。

個人的には、世界史に疎いので「フリーメイソン」やら「テンプル騎士団」と言われても、何がどうすごい?のかあまり把握できない。ストレートにアクション物としてみれば、そこそこ楽しめました。ってことで、7.5点にします。

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20.ビッグフィッシュ(2005.4)

基本情報 製作:2003年 米国作品
上映時間:125分
監督:ティム・バートン(「PLANET OF THE APES 猿の惑星」’01)
出演 若き日のエドワード・ブルーム…ユアン・マクレガー(「スター・ウォーズ エピソード2」’02)
エドワード・ブルーム…アルバート・フィニー(「オーシャンズ12」’04)
ウィル・ブルーム…ビリー・クラダップ(「あの頃ペニー・レインと」’00)
サンドラ・ブルーム…ジェシカ・ラング(「タイタス」’99)
若き日のサンドラ・ブルーム…アリソン・ローマン(「マッチスティック・メン」’03)
エーモス・キャロウェイ…ダニー・デヴィート(「エリン・ブロコビッチ」’00)
解説 出産間近の妻とパリで幸せに暮らすジャーナリストのウィル・ブルーム。彼の父エドワードは自分の人生を幻想的でマジカルな話として語り、聞く人を魅了し楽しい気分にさせる名人だった。ウィルも子どもの頃はそんな父の話を聞くのが大好きだった。しかし3年前の自分の結婚式で喧嘩して以来、父とは不和が続いていた。そんなある日、母から父の病状が悪化したとの報せを受け、ウィルは妻を連れて実家へと向かう。しかし、病床でも相変わらずホラ話を繰り返す父と、父の本当の姿を知りたいと願う息子の溝はなかなか埋まらなかった…。

ちょっとヘンな映画といえば、ティム・バートン。ブラックなコメディ「ビートル・ジュース」(1988)や今をときめくジョニー・デップを物哀しいハサミ男にしちゃった必見の名作「シザーハンズ」(1990)など、昔はかなり風変わりなB級っぽい映画だけど、どこかファンタジックで色彩感覚に優れた作品を多く作っている。余談だけど、「シザーハンズ」に出ていたウィノナ・ライダーは超かわいかったね。美しい金髪でお人形さんのようでした。最近はいい話を聞きませんが…。 この人。→
その後も、「マーズ・アタック!」(1996)でヘンな火星人出したりマイケル・J・フォックスなんて有名人を速攻で殺しちゃったりとやりたい放題ですが、ちゃんと有名な俳優さんが出演しているとこを見ると、そんな人たちもかなりヘンらしい。

この「ビッグフィッシュ」も、ファンタジックなストーリー展開とカラフルな映像、そしてちょっと変わった出演者の3拍子そろった佳作に仕上がっています。おとぎ話か実話かの区別をつけようとする頭の固い息子と、全くほとんどスタンスを変えようとしない親父さんの物語。最初は息子もかわいそうだなーと思いますが、ストーリーが進むにつれ、親父さんの(何割か)ホラ話にだんだん引き込まれていきます。息子の生まれ方(!)、身長が倍以上もある巨人なんだけど心優しい男、腰から下がつながってる双子のダンサー、自分の死ぬ時が見える目を持つ魔女…
「事実をありのままに話してもつまらないよ」。親父の病気を診る先生の言葉が、観る人の心を掴んでいきます。

親父さんの病状が悪化していき、息子が親父の身辺整理をしていると、「ホラ話だ」と思っていたことが事実に近いことがだんだん分かってくる。大部分は本当にあったことで、ちょっと背を高めに話してみたり、ちょっとあり得ないような設定にしてみたりと、息子が楽しく想像できるように大げさに話していただけだ、と。この辺の展開から、感動的なラストへと盛り上がっていきます。今まで話してきたたくさんの人に見送られる親父さん。ぐっときますねえ。埋葬の日、集まった人たちを見てみると…。

個性的だけど美しい映像は、やはりティム・バートンらしいもの。特にカラフルな建物・街や、対称的におどろおどろしい風景を見せるのがうまいっす。途中から「ビッグ・フィッシュ」の意味もわかってくるので、ストーリー自体は難しいものではないのだが、その分ホラ話そのままの映像表現を楽しむことができます。

キワモノ度は今までの作品に比べれば低いが、その分心温まる万人向けの作品になりました。けど、いくつかヘンなシーン(たぶんベトナム?戦争での腹話術のシーン。めちゃめちゃ面白い。とか)もあるのが、やっぱりヘンな映画でした。でもおすすめっすよ。8点

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19.ブラザーフッド(2005.3)

基本情報 製作:2004年 韓国作品
上映時間:148分
監督:カン・ジェギュ(「シュリ」’99)
出演 ジンテ…チャン・ドンゴン(「友へ チング」’01)
ジンソク…ウォン・ビン(「ガン&トークス」’01)
ヨンシン…イ・ウンジュ(「永遠の片想い」’03)
ヨンマン…コン・ヒョンジン(「ラスト・プレゼント」’01)
解説 1950年、ソウル。ジンテ(チャン・ドンゴン)とジンソク(ウォンビン)の兄弟は、母親を支えながら、ジンテの婚約者ヨンシン(イ・ウンジュ)とその弟妹も一緒に、貧しいながらも、家族で仲睦まじく暮らしていた。ところが、6月25日の朝鮮戦争勃発で、何の準備もないまま兄弟は揃って徴兵されてしまう。自分を犠牲にしてでも、高校生の弟ジンソクを守り、その将来に夢を託していた兄ジンテは、戦場で手柄を立てて太極勲章を授与されれば、弟の除隊を認めるという上官の言葉を信じ、命知らずの戦士へと変貌して行く。

北朝鮮軍200万人、韓国軍50万人。朝鮮戦争(韓国では『韓国戦争』と呼ぶ)の犠牲者数です。この他、中国軍100万人、アメリカ軍5万人、民間人は450万人という恐ろしいまでの犠牲者を出しています。(ちなみに、太平洋戦争における日本人死者は約310万人(うち軍人220万人、民間人90万人)

ちょっと朝鮮戦争のことを復習したい。
1950年6月25日、金日成の「武力による朝鮮半島統一」方針(と言われている)により、北朝鮮軍が38度線を越えて南進、3日後にはソウルが陥落。その後も破竹の勢いでアメリカ軍含む国連軍を南へ追い詰め、9月上旬には半島の約9割を占領した。
しかし、マッカーサー率いる国連軍は9月15日、ソウル西方の仁川に敵前上陸を敢行、一気に戦局が逆転し9月28日ソウル奪還、10月20日にピョンヤンを占領する。
その直後、中国軍が北朝鮮軍を助けるとして参戦、人海戦術で再び国連軍を南へ押し返し、1951年1月再度ソウルを占領する。その後は一進一退の戦局となり、1953年7月27日、北朝鮮・中国・国連間で停戦協定が締結された。
朝鮮戦争は、中国・ソ連・アメリカにとっては「共産/資本主義」陣地争いの代理戦争としての様相を呈し、日本にとっては「朝鮮特需」よって敗戦のショックから急速に立ち直る機会となり、同時にアジアにおけるアメリカの最大の協力者として、安保体制に否応なしに組み込まれることとなった。日本にとっても、非常に意味深い戦争です。

映画に話を戻しましょう。
主役は、今をときめく「韓国四天王」のお二人。どんな場面でも、どんなに泥で顔が真っ黒になっていても、お二人にはスターのカッコいいオーラが出まくってます。なんか顔が現代的すぎて、周りのドロドロした雰囲気から浮きまくっていて、大いに違和感があり。まあ、彼らのせいじゃないけど。この、「フレンチのフルコースの途中でお口直しに出てくるゆずシャーベット」のような清涼感(めちゃくちゃな例え…)が、オバ様達を熱狂させるのでしょうか?

ストーリー的には、ストレートな「兄弟の愛情物語」。父親代わりのジンテが、持病のある弟を守ろうとする姿が見る者の心を熱くさせます。そのためには自分の命も厭わない兄に反発し、離れていく弟ジンソク。う〜ん、ストレートだなあ。アイスを分け合う二人、川ではしゃぐ二人、弟を学校に行かせるために靴磨きをする兄… 全てのシーンが兄弟愛を盛り上げるエピソードとなり、後半の兄弟の衝突とラストシーンを盛り上げる小道具となります。
しかし、ストレートな映画に終わらないのが、この戦争の悲惨さを印象づける「同民族の殺し合い」を真正面から取り上げているからだろう。ジンテの婚約者が「アカ」のレッテルを貼られ、処刑場に連れて行かれるシーン。何の恨みもない、戦争前は友人だった人間を一抹の憐憫も感じずに殺せてしまう、狂気の世界。人間同士の争いに「思想」や「宗教」が入ると、何でこんなに酷いことが平気でできるのだろう。今、自分達がそんな環境に置かれたとき、そんな人間に変わってしまうのだろうか? 「それはおかしい」と自信を持って言える、強い人間だろうか? ひと時、考えさせられました。

映像・音は迫力あります。手持ちカメラを多用し、市街地戦は「プライベート・ライアン」のような臨場感を与えてくれます。ただ、ブレる画面を観て酔いやすい人は注意してください。

あくまで韓国側からだが、朝鮮戦争を知る映画としては良いかもしれません。けど、戦争映画には常に「片側の視点」が描かれるという宿命があります。本当に評価するためには、北朝鮮が作った映画を観る必要があるか(って、もっとヒドイと思うが…)。8点といたします。
今年2月22日、ヨンシン役を好演したイ・ウンジュさんが死去(享年25歳)。早すぎる死です。ご冥福をお祈りいたします。

(参考にしたサイト)
・非武装地帯(DMZ) http://www.lifeinkorea.com/culture/dmz/dmzj.cfm
・朝鮮戦争 http://web.sfc.keio.ac.jp/~ohsaki/china/chousensensou.html

・朝鮮戦争とは http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C4%AB%C1%AF%C0%EF%C1%E8

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18.21g(21グラム) (2005.2)

基本情報 製作:2003年 米国作品
上映時間:124分
監督:アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ
出演 ポール・リヴァース…ショーン・ペン(「I am Sam」’01)
クリスティーナ・ペック…ナオミ・ワッツ(「ザ・リング」’02)
ジャック・ジョーダン…ベニチオ・デル・トロ(「トラフィック」’00)
メアリー・リヴァース…シャルロット・ゲンズブール(「ブッシュ・ド・ノエル」’99)
解説 夫と2人の幼い娘と幸せな生活を送っているクリスティーナ。前科を持つジャックだが、今は妻と2人の子どもと平和に暮らし、信仰に生きがいを見い出している。心臓移植手術を受けないと1カ月の命という大学教授のポールの元に、別居していた妻メアリーが戻り、彼の子どもを宿したいと申し出る。決して出会うはずのない彼らが、ある交通事故をきっかけに結び付く。その果てにあるのは希望なのか、それとも…。

重い。21gどころではなく、21M/Tくらいのズッシリ感。表題となっている「21g」というのは、「命が消える時に、人は21gだけ軽くなる」という言い伝え?によるもの(事実なんですかい?)。人は死ぬ時に何を失い、何を残すのか、何を残そうとするのか。それらの命題を3人の主人公級の役者さんが演じるわけですが、それが、重い。熱演です。

この映画、時系列的に物語が進んでいくのではなく、細切れにシーンが前後していくため、最初は「あれ、これって過去の話?」ってな感じでかなり混乱する。慣れてくればつながりが自分なりに読めてきてすんなり理解できるんだけど、理解できないと訳わからん映画になるリスクあり。

主人公はショーン・ペン。大昔の「カジュアリティーズ」や「シン・レッド・ライン」などでは一クセある雰囲気を発散してたけど、最近は佳作の多い俳優・監督さんになりましたな。「ミスティック・リバー」ではアカデミー主演男優賞を獲得。これも重かったなー。
複雑な役どころだ。心臓移植を待つ(=誰かの死を待つ)という微妙な立場、手術は成功したが、探偵を雇ってまでドナーの行方を調べようとする心境、未亡人となったドナーの妻(クリスティーナ)に接近する気持ち、そしてラスト・・・ 別れてしまう妻(メアリー)よりもクリスティーナを選ぶ決め手は何か難しいところはあるが、副作用に苦しみつつ仇を取ろうとする姿は痛々しい。
結局、彼は自ら生き続けることを拒否してしまうわけで、妻メアリーとの過去やクリスティーナの事実を知っても、それは変わらなかった。自分も、周りに対しても、「生」というものから逃げてしまう人間の弱さを上手く出していたと思う。

交通事故で家族を失い、夫の心臓を提供するという残酷な事実を受け入れられない妻にはナオミ・ワッツ。本作でアカデミー主演女優賞ノミネートです。それに相応しい好演。不幸のどん底に陥り、無気力に日々過ごしていたが、死んだ旦那の心臓を持つポールに出会い、また違う人生が始まっていく。事故があった時や、ポールが現れた時の鬼気迫る演技は、「人間、極限状態にはこんな感じになるんやろうなあ」と怖くなるくらいの現実感を与えてくれます。

濃い〜い顔のベニチオ・デル・トロ。交通事故を起こし、たくさんの人の人生を変えてしまう、信心深い前科者を演じています。妻に反対されながらも自首し、刑務所で神の存在を神父に問う。出所してからも死なせてしまった子供達の顔が思い出され、結局家族と一緒にいられなくなってしまう。事故を原因として、「家族の絆」とは何か、「生きる意味」は何かを自らに問い続けながら生きていく道を選ぶ、この人の先の人生も限りなく重い。

この映画を貫いているメッセージ、クリスティーナの父親が発するセリフ「Life goes on.」(人生は続いていく)。どんなに辛いことがあっても、先が真っ暗闇に思える時でも、あらゆる人に対して平等に人生というものは続いていく。未亡人にも、犯罪者にも。だから人生は重い。でも、それを少しでも軽くしてくれるのは、「時間」ではなくあくまで「人」なんだと、僕は思います。

悲しいことがあった時は、この映画は見ない方がよろしい。浮上してくるのに時間がかかります。
でもいい映画ですので、タイミングを計って観てください。8.5点です。

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17.ロスト・イン・トランスレーション(2005.2)

基本情報 製作:2003年 米国作品
上映時間:102分
監督:ソフィア・コッポラ
出演 ボブ・ハリス…ビル・マーレイ(「チャーリーズ・エンジェル」’00)
シャーロット…スカーレット・ヨハンソン(「モンタナの風に吹かれて」’98)
ジョン…ジョヴァンニ・リビシ(「閉ざされた森」’03)
マシュー南…マシュー南
解説 ウィスキーのCM撮影のため来日したハリウッド・スターのボブ。彼は滞在先である東京のホテルに到着すると、日本人スタッフから手厚い歓迎を受けるが、異国にいる不安や戸惑いも感じ始めていた。さらに、息子の誕生日の不在を責める妻からのFAXが届き、時差ボケと共に気分が滅入ってしまう。一方、同じホテルにはフォトグラファーの夫ジョンの仕事に同行してきた若妻シャーロットが滞在中。彼女は新婚にもかかわらず多忙な夫にかまってもらえず、孤独を感じていた。ホテルで何度か顔を合わせたボブとシャーロット。2人はやがて言葉を交わすようになり、いつしか互いの気持ちを分かち合うようになるのだった。

マシュー南、ハリウッド進出!!!(笑) ボブが映画の中で、実在の番組「Mattherw's Best Hit TV」のゲストで登場してしまいます。訳がわからんといった顔のハリウッドスター、ボブ。いつもよりキレ気味のダンスとトークを披露するマシュー。映画に出てるの知らなかったので、突然出てきた時はかなり笑った。明らかにこの映画の流れを断ち切る、場違いな違和感。少々低めのこの映画のテンションを、更に冷却します。
嫌いじゃないけどね。今の日本のテレビカルチャーを紹介する上ではね。しかし、外国の方々はこの人間をどう思ったのか、非常に気になる…。 ハリウッドで出演乙波が殺到中(超ウソ)

監督はかの巨匠フランシス・フォード・コッポラの実娘ソフィア・コッポラ(「ヴァージン・スーサイズ」で初監督)。2作目となるこの映画で見事2003年度アカデミー賞の脚本賞を受賞しています。
この映画は珍しく100%日本でロケされた作品。そのほとんどが新宿の超高級ホテル「パークハイアット東京」を中心とした東京の街を舞台に撮影されている。
この画が、かなり寒いんですね。元々無機質で色彩の少ない西新宿、その中でも静か過ぎるくらい落ち着いているホテルでの撮影。バックミュージックもほとんどなし。普段見慣れている東京は、こんなに寒々としていて温かみがないのかな、という風に思わせる撮り方をしています。これが主人公二人の孤独感・寂しさを2乗、3乗していきます。一人は息子の誕生日なのに東京に仕事に行って妻に怒られ、カーペットをどの色にするんだと聞かれて気が滅入ってるおじさん。もう一人は一応新婚なのに仕事が忙しいダンナに放って置かれている若奥さん。この2人がホテルの中で度々出会い、会話を重ねていってお互いの孤独に共感し、それを埋めるために一緒に行動を始めて行きます。

ビル・マーレイの抑えた渋めな演技と、コミカルな会話はさすがという感じですが、もう一人の主人公スカーレット・ヨハンソンがいい!何で部屋の中でずっとあんな格好かは謎だけど、言葉のわからない国で一人ぼっちになった心情をよく表している。決して超美人ではないですが、存在感は充分。どこか大人になりきっていない、危うい雰囲気を持つ女優さん。

無機質なイメージとは正反対のカラオケボックス、パチンコ屋、怪しげなクラブ… ほとんどの人はみんな髪が黒く、同じような体格で、同じような服装で街を歩いているシーンを見ていると、日本人の僕が見てもなんかロボットがうごめいているようで、不思議な感覚になる。外国人から見た東京のイメージを少し体験できる意味では、新鮮な驚きはあった。

米国では、日本語のセリフも敢えて英語字幕とかは入れず(あのCMディレクターの機関銃のようなセリフとかもそのまま)、そのまま流すことによって観客も主人公の戸惑い・訳のわからなさ感を共有できるようにしたことで、かなり映画自体の評価が上がったと聞く。その点では、よくあるカルチャーギャップ映画を一ひねりしたアイデアは良いと思う。(病院のシーンとかは面白かった)。
しかし、この映画のメインテーマは、これらの要素を土台にした「大人の出会いと別れ」のストーリーである。不倫というドロドロしたものではなく、異国に取り残されたという不安定な状態ではあるが、いっとき心を通わせることの貴重さ、ささやかな安心感。ビル・マーレイの不器用で少し困ったような演技、ラストでの別れ、シャーロットの涙… 印象的で記憶に残るシーンである。それまでの淡々とした描かれ方から、別れなければいけない切なさを一気に盛り上げるテクニック、大したものですな。

パークハイアット、一番安い部屋でも一泊55,650円(消費税込み、サービス料10%・宿泊税別)でございます。すべての部屋が42階以上。いいなあ。52階にあるニューヨーク グリル&バー、一度行ってみたい。誰か連れて行ってください。
日本人的には少し寂しくなった映画なので、ちょっと辛めで7.5点にします。

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16.ハウルの動く城(2004.12)


基本情報 製作:2004年 日本作品
上映時間:119分
監督:宮崎 駿
声の出演 ソフィー…倍賞 千恵子
ハウル…木村 拓哉
荒地の魔女…美輪 明宏
カルシファー…我修院 達也
マルクル…神木 隆之介
解説 父が遺した帽子店で働く18歳の少女ソフィーは、ある日、悪名高き魔法使いのハウルに出会う。ハウルの正体はハンサムで心優しい青年だった。だがその晩ソフィーは、ハウルを目の敵にする荒地の魔女に呪いをかけられ、90歳の老婆の姿にされてしまう。家を出たソフィーは、荒地を歩くうちに一軒の家に迷い込む。実はそこは、人々が恐れる“ハウルの動く城”だったのだ。ソフィーは住み込みの家政婦となり、ハウルや弟子のマルクル、城の動力源である炎のカルシファーたちと奇妙な共同生活を始めるが…。

横のガキ、うるさい!!(怒) 始まる前の予告編の時はまだしも、上映中にしゃべるな! お菓子パリパリ食うな!イビキかいて寝るな! ごそごそすんな! 家帰って寝ろ!

・・・失礼いたしました。真横に母親×2プラスお子様×5(推計)の団体様がお座りになるという地獄を味わったため、取り乱してしまった。でもなあ、18:30の開始なんだけど、たぶん小学生になったかどうかのお子様達には時間遅いんじゃないですかねえ? 来るなとは言えないけど、家でテレビやビデオを見てる気分でいるお子様達に、「映画は静かに観るもの」と教えてもわかるんかねえ? せめてそれが理解できる年齢になってから来て欲しかった。

『千と千尋・・・』以来の宮崎アニメ。世界に誇る日本アニメの旗手だが、今回の出来は・・・ うーん、子供が寝るのもわかる。『千と千尋・・・』よりは確実に対象年齢が上で、かつメインターゲットは女性だから、男の子はちょっとつまんないかも。ハウルは少女漫画から抜け出たような男前でユーモアもあり、けれどどこか寂しがり屋って雰囲気。その声が前回レヴューに続きキムタク。ドラマの時のぼそぼそしゃべりができないため、妙に滑舌(カツゼツ)良くしゃべろうと頑張ってるのが出すぎてて、感情の起伏が声の表情に表れてこない。声優は一朝一夕にはできませんよっていうのの典型。倍賞さんはまだ良い。若い時のソフィーの声はさすがに落ち着きすぎかな、と思うけど。美輪 明宏、最高! そのまんまだけどね。

ソフィーはいつの間にハウルを愛しちゃったのか? 顔が若くなったり年取ったりするのはなぜ? 国王達はなんで戦争してるの? ハウルはそれに対して何をしようとしているの? そう、この映画は難しいのである。こういう疑問を自分で考えさせるのがこの映画なんだな。わかりやすさからいうと、この映画は小学校低学年には少々厳しい。笑いのポイントだけはわかりやすいけどね。
ハウルの過去を紐解く場面や、それぞれが守るべきものに気づき、自分に素直になっていくところは、人と人のつながりの大切さを語っているように見える。捉え方は人それぞれかもしれないけど。

「動く城」の存在感、躍動感、ディテールの細かさはさすがに芸術的だ。前半部分の街並みや、建物・車などからたなびく煙の表現はリアルである。何より、ハウルの隠れ家的なお花畑と付近の山並みのシーンは、ほとんど「絵画を鑑賞する」というノリに近い。映像表現は既に行き着くところまで行っているだろう。
でもやはり、宮崎アニメの真骨頂は「魅力溢れるキャラクターたち」だ(特に今回は)。お調子者のカルシファー、「待たれよ」のマルクル(彼の『変装』は変すぎ)、お人好しかかしのカブちゃん、荒地の魔女と必死で階段を上るシーンは笑い声が絶えなかったし。面白すぎる。その発想力とかアイデアは、常人では及ばないエリアに達してるな。彼らの活躍がなければ、この映画は魅力に乏しいフツーの作品に終わってたんじゃないかな。

点数を付けるのは難しいねえ。面白いかと問われると、「まあ、観て損はない」というしかないし。でも「美女と野獣のような終わり方には唐突感があるし、二人の恋愛感情の見せ方や盛り上げ方が不十分な気がする。キャラクターに助けられて、8点ってことにしましょう。僕の中の宮崎アニメベスト1は「風の谷のナウシカ」で変化なし。この作品は…5番以内に入るかどうか??

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15. 2046 (2004.11)


基本情報 製作:2004年 香港作品
上映時間:130分
監督:ウォン・カーウァイ
出演 チャウ…トニー・レオン(「インファナル・アフェア」’02)
スー・リーチェン…コン・リー(「始皇帝暗殺」’98)
ジンウェン…フェイ・ウォン(「恋する惑星」’94)
バイ・リン…チャン・ツィイー(「LOVERS」’04)
タク…木村拓哉(「ハウルの動く城」’04)
解説 1960年代の香港。売文業で生計を立てる男、チャウ。行きずりの女たちとの夜を繰り返すチャウは、宿泊先のホテルのオーナーの娘・ジンウェンと親しくなる。ジンウェンは日本人青年との叶わぬ恋に打ちのめされていた。その悲恋に心を揺さぶられたチャウは、彼女たちをモデルにした近未来小説を書き始める。小説の主人公は、美しいアンドロイドとミステリートレインで旅をする。目指す場所に辿り着けば、失われた愛が見つかる。その場所の名は、2046−。いつかペンを走らせるチャウの胸の内にも、忘れられない過去の恋が甦っていた。

キムタク、ちょっと見てられません… うまいとか下手とか言うのではなく、ドラマとかで見慣れすぎてるんやね、私達は。外国行っても英語を話し続ける○国人みたいに、日本語でしゃべり続ける姿。この映画の中では違和感ありすぎ。頑張って映画を見ようと思っても、彼がしゃべると「連続ドラマのキムタク」がスクリーンに重なり、現実に引き戻されるような錯覚に陥る。出演シーンが増えたらしいけどセリフは少ないし、印象に残るシーンも少ない。キムタクでなくても全然OK。
公開前は、「キムタクとアンドロイドの恋」なんて印象で語られてたけど、120%違います。日本人向けのコピーですかね。これだけの大スターに囲まれたキムタクがかわいそうだよ。

アジアンスターが豪華に共演(韓流除く)していることでかなり話題になっているこの映画、確かにキムタク以外のキャストは素晴らしい演技を見せています。
まずは主人公のトニー・レオン。ちょっと脇腹に霜降り肉が付き始めていますが、いつも微笑みを絶やさず、魅力的な女性をとっかえひっかえしている優男ぶりはかなりのもんです。こりゃモテるわなあ。新聞のコラムニストから官能小説家になるけど、ビンボー時代でも生活は荒れることなく(せいぜい賭博に走るくらい)、淡々とマイペースで生きていく。男から見ても楽しそうだけど、現実はちょっと無理。

「熱演賞」をあげるなら、やっぱチャン・ツィイーでしょう。シャンプーのコマーシャルでだいぶ見慣れたこの人、映画とかちゃんとした演技を見るのは初めてやけど、トニー・レオンに次ぐ登場時間(恐らく)を納得できるほどの熱演ぶりやった。顔的には「きれい」と「かわいい」の中間って感じも、個性的で良いです。
男を手の上で転がすような強気な娼婦役だけど、ちゃんとお金を貯めたり、遊び人トニー・レオンに嫉妬したりする子供っぽさも併せ持つ。まさに「小悪魔」という表現がぴったりかな。もっとおとなしい女優さんかなと思ってたけど、結構大胆な演技してたし、それが無理してるようにも見えない。トニー・レオンに振られるラストはかなりかわいそうで、「本気で泣いてるんじゃないの?」って思うぐらいだった。

フェイ・ウォン、1969年生まれの同い年ですか。とてもそうは思えないほど若く、美しい。アンドロイドになってるシーンなんてお肌つるつるです。歌手としても成功を収めている才能豊かな人ですね。
キムタクと付き合ってて、頑固親父に反対されて別れちゃったんだけど、健気に日本語を勉強したりして忘れることのできない純粋な娘の役を好演してます。

ストーリー、難しいねえ。時間軸も行ったり来たりして、昔の出会いが後に登場したりするので、「あれ、この人別れたよなあ」ってシーンがあったり… それぞれが真剣に人を好きだったとしても、タイミングが合わずに成就しない。トニー・レオン以外の人達の涙は、見ていて切なくなるようなものばかりである。結局、トニー・レオン、あんたが真剣にならないからじゃん!周りが迷惑してるよ。結局一人で生きて行きたいんかい?どうしたいのよ?って訊きたくなる。
音楽もまあまあいいけど、キムタクの位置づけの曖昧さ、ちょっと長いかなと思わせる上映時間などを鑑み、厳しいかもしれないけど7点ということでお願いしたい。

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14.バイオハザードU アポカリプス(2004.10)


基本情報 製作:2004年 イギリス/フランス/ドイツ作品
上映時間:93分
監督:アレクサンダー・ウィット
出演 アリス…ミラ・ジョヴォビッチ(「バイオハザード」’01)
ジル・バレンタイン…シエンナ・ギロリー(「ラブ・アクチュアリー」’03)
オデッド・フェール…カルロス・オリヴェイラ(「ハムナプトラ2」’01)
ケイン少佐…トーマス・クレッチマン(「戦場のピアニスト」’02)
マイク・エップス…L.J.(「ワイルド・チェイス」’00)
解説 ウィルスが蔓延しているラクーンシティから、脱出を試みるアリス達の行く手をアンデッド達や、新たなバイオ兵器メネシスが阻む!さらにアンブレラ社は“事実”を隠蔽するために核兵器で街全体の消滅を計る…。残された時間は4時間。争いを憎み拒みながら過酷な運命に闘いを強いられるアリスは、果たして迫り来る脅威から生き残れるのか…。

リプリー対ロボコップ 仁義なき戦い!小さい娘を抱えながら逃げる姿、エイリアンシリーズの主人公リプリーを彷彿とさせます。あるいは戦いぶりはトリニティ(マトリックスシリーズ)か?教会のステンドグラスを破ってバイクで登場するとこなんて、マトリックスリローデッドでのトリニティの侵入シーンにそっくりやん! そこで対するは、足音は完全にロボコップ状態のネメシス。ロケット弾でもガトリング砲でも何でも来い。でもロボコップみたいに優しくない(当たり前か)。

さて、前作から2年経って公開された本作、映画上では36時間後の設定になってます。前作の終わり方はどう見ても2へのつなぎだったんだけど、やはりそうでした。アリスが入院してる間に、ラクーンシティ(地上)はハチャメチャ。ゾンビが徘徊する暗黒都市になっちゃってました。

ホラー映画とかが超苦手な佐川家(「シックス・センス」も怖すぎて途中で映画館出たくなった…何とか最後まで見たけど、しばらく夜トイレに行けなかった)ですが、1はそんなに恐怖感は感じなかった。ゲームの方がよっぽど怖いからそっちで慣れたのか?それもあるけど、ゲームみたいにいきなりガラスが割れてゾンビが飛び込んできてとかがないし、ゾンビが集団で襲っているシーンも妙に明るくてそんなに「見たくな〜い」ってなるくらいではない。
でも…2は怖い。確実に怖い。「そんなとこに一人でいっちゃだめー」っていうとこに行き、やっぱり食われちゃう。研究者の娘を探しに学校を探索するときも、ワンフロアを一人で見に行けなんて言われるし。僕だったら絶対断る。二人一組が基本やろー。
ラクーンシティの街を動き回るゾンビたちの映像も、1とは比べ物にならないくらい暗〜い雰囲気が漂い、絶望感すら感じさせる映像に仕上がっている。「U」はできるだけゲームの設定や雰囲気を踏襲するように作られているのだが、この点はなかなか高得点をあげられる。

アリス、強い!この2年間で相当鍛えたんやろうな。ゾンビと素手で戦うシーン、蹴るわ殴るわ目にも止まらないスピードで技を繰り出す。圧巻はビルのてっぺんから命綱一本で垂直に駆け下りるシーン。さすがに最初の方は危なすぎてスタントの人がやってるんだが、地上まで20mくらいから先はミラ・ジョヴォビッチ本人がやってるそうな。なかなか運動神経も良いね。
ネメシスと戦うシーン、カット割りしすぎ。ま、スピード感を簡単に出すには、カメラのカットを多くしてやれば何となく動きが早く見えるので多用してるんだろうけど、正直目が疲れる・・・ で、お互いの攻撃がどこにどう当たってるのかもようわからん。

ストーリーは単純、というより無いに等しい。要はラクーンシティを脱出するのが目的だから、それが終わればさようなら。ってわけにはいきません。やっぱ、このままでは終わらなかった。1と同様、大いに含みを持たせたままエンディングへ向かいます。
上映時間が短いせいもあるけど、あっという間。手に汗を握り、アドレナリン出っぱなしの疲労系映画です。僕は楽しめました。「1」は見ていったほうがいいかもよ。アリスの強さのバージョンアップを確かめるために。8点差し上げます。

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13.マスター・アンド・コマンダー(2004.10)

基本情報 製作:2003年 米国作品
上映時間:139分
監督:ピーター・ウィアー
出演 ジャック・オーブリー艦長…ラッセル・クロウ(「ビューティフル・マインド」’01)
スティーヴン・マチュリン…ポール・ベタニー(「ビューティフル・マインド」’01)
バレット・ボンデン…ビリー・ボイド(「ロード・オブ・ザ・リング」3部作)
トーマス・プリングス…ジェームズ・ダーシー(「エクソシスト ビギニング」’04)
ウィル・ブレイクニー…マックス・パーキス
解説 1805年、英国海軍サプライズ号は、祖国を遠く離れた海上で、数々の英国船を沈めてきたフランスのアケロン号と対峙していた。そこにはあどけない少年士官の顔も見られた。だが彼らには、船員たちが“幸運のジャック”と慕うジャック・オーブリー船長の存在があった。12歳の士官候補生ブレイクニーも、船長の勇姿を眩しそうに見つめる。そんなある夜、サプライズ号は霧の中から現れたアケロン号の奇襲を受け…。

この頃の船って手漕ぎボートで引っ張れるんですか? アケロン号の奇襲を受け、満身創痍になりながら濃い霧の中へ必死で逃げるサプライズ号。帆が役に立たなくなってスピードが落ち、アケロン号に追いつかれちゃう! 冷静なジャック艦長曰く、「ボートで引っ張れ!」…。船員達も黙って従い、船の前に手漕ぎボートを浮かべて引っ張っていく。フツーにやってたのかね。まあ、現代でも飛行機を引っ張る力持ちがいるくらいだから、同じようなもんか…(ホンマに?)

「ラッキー・ジャック」と呼ばれ、百戦錬磨・指導力抜群・度胸満点の艦長役はちょっと太った?ラッセル・クロウ。「ビューティフル・マインド」の学者役よりは、「グラディエーター」に近い本作の役どころの方がやっぱ違和感がないなあ。艦長というよりは酔っ払いのコックってな風貌。制服の腹回りがキツそう。人間臭く男臭い艦長役で、大胆な戦略でアケロン号を追跡するけど、逆に嵐に遭ってピンチになったり、囮のいかだで敵の目を欺いたと思ったら、士官を失ったり見捨てたことで船員の気持ちが離れてないかを気にする… 非常に感情の起伏が激しくて付いていくのが大変だ。
中盤以降までは、このハイテンション艦長と“天才医師”マチュリンとの絡みがポイント。天才だから、負傷したブレイクニー君の右腕あっさりバッサリ切断するのも(うー、かわいそう…)、皆が見てる中でおっさんの頭が陥没したところを切ってコイン(あれ、埋めたってこと?誰か教えて)で治療したり、何でもへっちゃらさ! 感染したりしないの?大丈夫? 昔はめちゃくちゃだ。ちなみに、ラッセル・クロウはちゃんと練習してヴァイオリンを弾けるようになったそうな。

アケロン号との超至近距離での砲撃戦や、荒れ狂う嵐の中でのサプライズ号の奮闘は、音響のリアルさと描写の鋭さでかなりの迫力が楽しめます。なんせ木造の船だから、砲弾が当たったときの衝撃と被害はすさまじい(みたいね)。一瞬にして装甲を破壊し、そこらじゅうのものをなぎ倒していく。後の時代の砲弾のように命中してから爆発するような弾ではまだないから、余計生々しい光景になってしまう。あでも、そんなに「肉飛び散り系」の映像ではないからご安心を。

後半以降の主役はなんと言っても「ガラパゴス諸島の動物たち」でしょう!アケロン号がガラパゴス諸島に向かっていると確信した艦長はそこに向かうんだが、寸前で上陸を取りやめる。マチュリン医師との確執もあったんだけど、「動物オタク」でもある医師は上陸したーいと駄々をこねる。どうしても上陸したかった医師は、珍しい鳥を撃とうとした船員の弾に自ら当たりに行き、手術するためめでたく上陸を果たす(大ウソ 笑)。でもここらへんって少々強引すぎません?
でも、初めてスクリーンに現れた(らしいです)ガラパゴス諸島の動植物の映像には見入ってしまった。これは凄い。海の中を泳ぐイグアナやゾウガメの身体の部位のサイズを測るシーン、オットセイ?の群れや飛べない鵜の仲間などなど。彼ら、人間がそばにいても全く逃げないのである。結構驚き。公園にいるハトなんかよりもっと大胆。
ガラパゴス諸島のシーンは「静」。美しい自然と珍しい動物の映像にひたるひと時であった。

少年士官候補たち、荒くれおじさんのなかで美しい光を放っています。ネルソン提督に憧れる若干12歳のブレイクニー君は大活躍するんですが、この映画のもう一つのテーマなんだろう「彼らの成長と犠牲の尊さ」を見せる場面はそう多くない。それくらいラッセル・クロウの存在感の大きさと、ガラパゴス諸島のインパクトは強かった。監督の意図とは違うところに目が行ってしまうかもしれません。受け取り方にもよるんですが、決して「青少年士官が伝説の艦長に憧れ、成長していく」という映画ではありません。
その辺をご了解の上、ご覧くださいませ。8点を差し上げます。

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12.スパイダーマン2(2004.8)

基本情報 製作:2004年 米国作品
上映時間:127分
監督:サム・ライミ
出演 ピーター・パーカー…トビー・マグワイア(「シービスケット」’03)
メリー・ジェーン・ワトソン…キルスティン・ダンスト(「ジュマンジ」’95)
ドクター・オクトパス…アルフレッド・モリーナ(「ショコラ」’00)
ジェームズ・フランコ…ハリー・オズボーン(「容疑者」’02)
解説 大学やアルバイトに加え、スパイダーマンとして闘うピーターは、憧れのメリー・ジェーンとすれ違うばかり。スパイダーマンへの復讐を誓う親友のハリーともうまくゆかず、人間関係に悩む。そんな時、優秀な科学者であるDr.オクタビウスに会うが、彼は実験中の事故で凶暴な怪人ドック・オクに変身してしまう。

スパイダーマン、今回顔出しすぎ!前作ではあんなに頑張って顔を隠してたのに…MJ(メリー・ジェーン・ワトソン)だけならまだしも、電車の乗客達はどうなんでしょ? 絶対誰かがチクっちゃうよ。そしてMJが狙われて…ってこれは3のストーリーか?

さてさて、かなり大ヒットした前作から2年。当然のように続編です。NYの摩天楼を空中ブランコのように飛ぶスパイダーマンの映像に目を奪われ、自分も一緒に飛んでるようなとっても爽快な気分に浸ることができた前作。たいていシリーズ物の第2作ってのは厳しい評価になりがちですが、本作はどうでっしゃろ??

大学生になったピーターですが、昼間は学業、夜は正義の味方と八面六臂の活躍ですが、いくら若いといっても一応?人間だから、どうしても学業がおろそかになっていき、ピーターは悩みます。「どないしたらええねん…」@(注:字幕は標準語です)。よってバイトにも身が入らず、ピザ配達もあっさり解雇。また悩むピーター。「どないしたらええねん…」A。MJとの関係も全く進まず、挙句に違う男と婚約されたりして、ますます思い悩むピーター。「どないしたらええねん…」B。@〜Bにより、ほとんど鬱状態に陥ったピーター、手から糸を吐くこともできなくなり、高いところに上ったまま降りられなくなり(エレベーターで降りてくるシーンは爆笑!!)。結論として、スパイダーマン廃業を決めます。

…あ〜、イライラする〜!! 画に描いたような優柔不断。MJの前でも「あ、あのー…何ていうか…」っていうシーンが多いため、「早よ言わんかい!」と叫びたくなる。「等身大の悩めるヒーロー」の図なんだけど、あまりにのんびりというか、色んなことに臆病というか…。確かにスパイダーマンになってるときの「勧善懲悪」モードは白黒はっきりしてるから判断もしやすいけど、日常なんて白黒グレーなど様々な色があるからねえ。まだまだ子供ってことなんでしょうか。

オクトパスはどうでもいいような気が…。メイおばさんも一瞬連れて行かれますが、気丈にも反撃しまくってます。このおばさんの話にピーターは救われ、スパイダーマン復帰を決めます。いい味出してます。
えー、MJについては、「ヒロインにしては…不細工じゃないけど、魅力的か?」という説が巷間ささやかれております。皆さんどう思います? 3歳から業界で活躍し、数々の賞を受賞しているホントは凄い人なんですけどね…僕はそんなに違和感ないけど、ちょっと顔が老けてるかな、くらいで。

アクションシーンは満足できる出来です。ありえないアングル、動き、撮影とCGの力ですな。死にそうになって暴走電車を止めたシーンは、「最後で止まるよな」って信じていても汗かいちゃいます。CMでも流れてた「飛び込んでくる車を避けるシーン」飛び散るガラスまで鮮明に見えてびっくりです。だんだんスーパーマン化しておりますが、ピザの配達もするヒーローというのはなかなかいないね。スカッと爽快!ってのよりは、ぐっと手に力が入っちゃうってノリでしょうか。前作とはまた違う印象でした。

ストーリー? 「ハッピーエンド」と「3へのネタ振り」ってとこでいいでしょ。

7.5点でよろしいでしょうか。イライラ分だけ減点。それ以外はまあまあ。

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11.ムーンライト・マイル(2004.8)

基本情報 製作:2002年 米国作品
上映時間:116分
監督:ブラッド・シルバーリング
出演 ジョー・ナスト…ジェイク・ギレンホール(「デイ・アフター・トゥモロー」’04)
ベン・フロス
…ダスティン・ホフマン(「ジャンヌ・ダルク」’99)
ジョージョー・フロス…スーザン・サランドン(「キャッツ&ドッグス」’01)
モナ・キャンプ…ホリー・ハンター(「普通じゃない」’97)
バーティー・ノックス・・・エレン・ポンペオ(「キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン」’02)
解説 婚約者ダイアナを亡くしたジョー(ジェイク・ギレンホール)は、葬儀後も彼女の両親、ベン(ダスティン・ホフマン)とジョージョー(スーザン・サランドン)と暮らし、ベンの不動産業を手伝うことになる。悲しみを行動で乗り切ろうとするベンは、早速ジョーを商店街の地上げに連れ出した。商店街のバーでは、バーティー(エレン・ポンペオ)が働いていた。バーティーに惹かれたジョーは、誰にも言えなかった真実を告白する。それは、事件の直前にダイアナとの婚約を解消していたこと…。

ダスティン・ホフマンってやっぱ鼻でかいよな・・・ また関係ないネタ・・・
たまたま妻が借りてきたDVD、しかも珍しく地味なドラマ物。予備知識ほとんどゼロ。ま、たまにはこういうのもええか。

さて、キャストを見ると・・・おお、アカデミー賞俳優のオンパレード! ダスティン・ホフマンは久しぶりやねえ。もう66歳になるのか。ええ年の取り方してきたねえ。スーザン・サランドンもちょっとご無沙汰。「テルマ&ルイーズ」が1991年か・・・(古いっちゅうの)。ホリー・ハンターは相変わらずお若いっすな。

ん?何か最初っから辛気臭いシーンだな。あら、嫁入り3日前の幸せいっぱいなお嬢さん(ダイアナ)が亡くなったの・・・それも発砲事件の流れ弾に当たってですか。それは悲しいでしょうねえ・・・ってみんな悲しそうじゃないじゃない???。なんで??。一番悲しそうじゃないのが主人公の婚約者ジョー(ジェイク・ギレンホール)。最近作「デイ・アフター・トゥモロー」では勇気を持って困難に立ち向かう学生を演じていた彼は、ここでは婚約者と結婚式直前に別れていたけどそれを言い出せないか弱い男の子を演じている。親父のベンは、娘の死を上手く自分の中で整理できず、仕事仕事で気を紛らわせようとする。母親のジョージョーは、慰めてくれる人の言葉を素直に聞くことができず、感情的に、嫌味たっぷりに表面的な人々の気持ちを批判する。
これらのシーンを第三者的に一歩引いて映しているため、「何かこの人たち変だぞ」という思いを抱きながら観ることになる。

婚約解消を隠しながら、義理(になるはずだった)の両親と暮らし続けるジョー。それは決して「いたわり」の気持ちではなく、真実を言い出したくない自己防衛の感情が見え隠れする。で、親父の不動産業を手伝う中で地上げの対象になったバーの女主人(バーティー)への気持ちが抑えられなくなり、真実を話すことになる。
親父も実は娘との関係で悩んでいて、成長する過程でもほとんど会話をすることなくほったらかしにしてきたことが明らかになる。それを後悔する親父の気持ち。仕事に打ち込むことを言い訳にしてきたツケが、娘と話し合う予定だった日に娘が殺されてしまうという、取り返しのつかない事実。それぞれが、自分の中に正直になれないものを抱えていたってわけ。

それより何より、妻ジョージョーを演じるスーザン・サランドンが素晴らしい。初めはちょっとヒステリー気味に周囲に当り散らしていたが、娘が死んでも仕事一筋のベンに辟易しながらも、夫を信じ夫婦が強い絆で結ばれていることを再確認させてくれるセリフ(寝るとき・・・ってヤツ)、真実を告白したジョーに対する温かい言葉と態度・・・素晴らしい母であり、妻である。かなりじーんと来てしまった。やっぱり女の人ってなんやかんや言って、男が自分を見失うような時でも、ちゃんと地に足の着いた考え方と行動が取れるんじゃないかなあ。弱いようで強いと言うか…。いい演技しています。

法廷で真実を語るところ。ダイアナってどういう人だったの? これはこの映画では主題でなく、真実を伝えることの難しさ、家族のつながりってどういうことなのか、こういう点を観て欲しい。ハッピーエンド?かどうかはわからないけど。
ご夫婦の方、子供がいらっしゃる方、一度観てもよろしいかと思いますよ。ということで、8点差し上げます。


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10.ラスト サムライ(2004.7)

基本情報 製作:2003年 米国作品
上映時間:154分
監督:エドワード・ズウィック
出演 ネイサン・オールグレン大尉…トム・クルーズ(「マイノリティ・リポート」’02)
勝元 盛次…渡辺 謙(「陽はまた昇る」’02)
氏尾…真田 広之(「たそがれ清兵衛」’02)
たか…小雪(「ケイゾク/映画」’00)
解説 19世紀末。南北戦争の英雄、オールグレン(トム・クルーズ)は、原住民討伐戦に失望し、酒に溺れる日々を送っていた。そんな彼が、近代化を目指す日本政府に軍隊の教官として招かれる。初めて侍と戦いを交えた日、負傷したオールグレンは捕えられ、勝元(渡辺謙)の村へ運ばれた。勝元は、天皇に忠義を捧げながら、武士の根絶を目論む官軍に反旗を翻していた。異国の村で、侍の生活を目の当たりにしたオールグレンは、やがて、その静かで強い精神に心を動かされていく。

努力は認めよう!!ここまで真正面から日本の歴史を切り取ったハリウッド作品はないだろう。「パール・ハーバー」やらに代表される戦争モノは特に、必要以上に日本(人)を悪者に描いてみたり、どうしても中国にしか見えない人や物が出ていたりと、「誰が時代考証をしとんねん!」と怒りながら観ることが多かった。
この映画でも多いっすよ、そういうの。大人げなく挙げてみると、
 @(初めの方で)敗走中じゃあるまいし、戦場のど真ん中で「ハラキリ」はやめてあげようよ。
 A縁側でお茶を点てるのはやめましょう。埃が入るよ。
 B勝元はどこで英語を習ったの?
 C勝元の軍って総勢500人? 戦国の世では「1万石で500人の兵を養える」というのが標準だったから、勝元の石高ってたかが1万石?だからあんな山間部にいるわけ? ってか、それで参議やらしてもらえるの?
とまあ、枚挙に暇がない。これらを論じてこの映画をこき下ろすことは簡単なので、大人としてはもう少し違う観点から観てみましょう。

「ラスト・・・」ていうと、「ラスト・オブ・モヒカン」を思い出すのは私だけ? オスカー俳優ダニエル・デイ・ルイスが、インディアンに育てられた白人青年ホークアイとしてアメリカ先住民のモヒカン族の最後の生き残りになるという映画。結構好きな1本なんだけど、なんとなくこの2本に共通するものがあるような気がする。
方やモヒカンで、方やチョンマゲってことではなく… どちらも時代の波に飲み込まれようとする少数派を主人公に、強者の正義とか開拓者精神なんてのを批判し、いかに自分たちの先祖がヒドイことをしてきたかをやや自虐的に語る映画なんやな。「・・・モヒカン」の方がもう少しアクション・恋愛物寄りなんだけど、いずれも部族・領地を守ることを生きがいとしてきた人間たちの高潔さ・崇高さをそれぞれの立場で描いている。今、あまりにも失われすぎている「精神の充実」「スピリッツ」というものが、いつの時代・どの民にも昔はあり、それを受け継ぐことが子孫を残す意味だったんやな。
今は「個人主義・自己責任」がまかり通り、自分が大事で自分さえよければ他の人はどうなってもその人の責任なんや!というある種乱暴な価値観に移りつつある。それが100%正しいとは誰も思っていないが、それを否定することは自分の「甘さ」を露呈しているようで、そんな勇気もない。

開国から始まった「新たな価値観の押し付け」は、明治政府の「一秒でも速く国際的に見劣りしない国になりたい」という願望と結びつき、急速に日本中に広まっていった。それに廃藩置県・廃刀令など一連の法令によって武士としてのアイデンティティを取り上げられていき、「さぶらう(=仕える:さむらいの語源といわれている)相手を失っていった「元・武士」は、どう生きていくべきなのか。この映画の答えは「武士道とは死ぬことと見つけたり」だったわけです。武士らしく死ぬために如何に今を生きるか? 死に場所をどこに定めるか? 死ぬと分かっていて最後の戦いを挑み、玉砕する。いや、「死にに行く」と言った方が正しいな。なんか、第2次大戦の日本軍みたいやなー。「日本男児」として如何に潔く散るか・・・ でも、やっていることはメチャメチャでも、背後にあるのは「日本を、家族を守る。民族の誇りを守る」という立派な意識があったと思う。これこそ、今の日本人に必要な意識ですよね。

真面目な話はさておき(おくんかいな!)、この映画のベストキャストは真田 広之!(次点:小雪)。存在感・殺陣・迫力、この映画はこの人抜きには語れません。渡辺 謙が大柄な分動きが少しもっさりして見えるのとは対照的に、スピーディーで説得力のある動きは観ていてうっとりします。この手の時代劇にはこの人は欠かせませんな。噂ではトムも渡辺 謙も食っちゃうほどの演技だったため、映画では登場シーンがえらくカットされているとか・・・
小雪さん、和服も似合いますねえ。大化けする女優さんかもしれませんね。あとはセリフとかの言い回しでしょうか。頑張ってください。
でも、自分の夫を殺した相手と一緒に住んじゃうのはやりすぎ。武士の妻は、その時点で自害します。細川ガラシャ夫人の潔さを見習いなさい。
努力は認めます。だから、8点くらいでどうでしょ?


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9. AKIRA(アキラ) (2004.7) 

基本情報 製作:1988年 日本作品
上映時間:124分
監督:大友 克洋
声の出演 金田…岩田光央
鉄雄…佐々木望
ケイ…小山茉美
大佐…石田太郎
竜…玄田哲章
解説 1988年、関東地区に新型爆弾が使用され、第3次世界大戦が勃発した――。2019年、ネオ東京。金田をリーダーとするバイクの一団は進入禁止の高速道を疾走していた。しかし、先頭にいた島鉄雄は突然視界に入った奇妙な小男をよけきれずに転倒、負傷する。小男と鉄雄は直ちに現れたアーミーのヘリに収容され飛び去ってしまった。翌日、鉄雄を捜す金田は、少女ケイと出会う。彼女は反政府ゲリラの一員で“アキラ”という存在を追っていた。その頃、鉄雄はアーミーのラボで強力なクスリを連続投与され、不思議な力を覚醒し始めていた…。

またえらい古いのを今さらどしたん?? ってツッコミが入りそうですが、文芸作品からアニメまで守備範囲広く観るのが大人ちゅうもんでしょ?? ってのは大げさで、単に「AKIRA」と同じ大友監督の新作「スチームボーイ」が公開されて、少し興味があるからってだけです・・・。いやいや、古きをたずねて新しきを知ることは、現代の諸問題を考察する上で必要不可欠な行動といえるでしょう(大げさだって)。

さて、この作品は今から16年も前に同名の漫画を原作として製作・公開され、その世界観・人間技と思えない緻密な描写・音響などが一部のオタクだけでなく内外の評論家・映画制作者に多大な影響を与えた、ジャパニメーションの草分けと言われる作品、だそうです。バブル全盛の豊富なジャパンマネーをほんの10億円!ほど使い、10万枚以上ものセル画を描いて出来上がった、今では考えられないほどの贅沢な作品だ。やっぱりバブルって凄かったんだよ、おぼっちゃんお嬢ちゃん。

観てみて・・・
いやあ、色褪せないっていうのはこういうものを言うんだろうね。「最近の作品」と言っても全く違和感なし。冒頭、ネオ東京の街を疾走するバイクのスピード感やテールランプの残像、排気ガスの煙の流れ・・・ 構図や意表を突くカメラアングルは実写映画を超えた迫力をアピールしている。実写やCGだとウソっぽくなるようなシーンやカットも、アニメだからこそ違和感なく受け入れられるんだろうな。流行りの「フルCGアニメ」は如何に実写に近づけられるかという方向性なのに対し、この作品は「アニメらしい」映像表現をすることで独特のビジュアルを主張できているんです。
魅力ある登場人物の表現(特に顔の表情の描写)も凄いと思った。感情を出しているときの口や表情の動きが完全にセリフとシンクロしていて、存在感を与えているんやね。面白いのは実験体になった3人の少年少女?。膨大な投薬によって「妖怪人間ベムみたいな顔色になっちゃったし、でも覚醒時年齢は8歳とか9歳の子供たちのままなので、怖い顔してるのに口調は小学生だったりする・・・。

いじめられっ子の鉄雄が徐々に超能力に目覚め、その力を持て余し始めるとストーリーは加速度的に進む。それぞれがそれぞれの立場で鉄雄を追っていくが、鉄雄は一片の憐れみも見せずに東京を破壊し、人を殺し続ける。見え隠れする「AKIRA」の正体。そこに至る過程は決して単純な勧善懲悪の図式ではなく、人間の弱さや土壇場での強さ・勇気を映し出していく。
鉄雄を救うために秘密基地へ潜入する金田とケイ、かれらを襲う空中浮揚ジェットスキー?との下水道での戦闘シーンは記憶に焼きつきます。その後、スタジアム地下に眠る「AKIRA」を巡る金田と鉄雄の戦いからエンドにかけては、ちょっと宮崎アニメに出てくる「でっかい怪物」みたいな感じでちと気持ち悪い。あ、それとでっかいクマとかの人形・・・
最後の最後、実験体の少年少女たちが自分たちの身を挺して(たぶん)、ネオ東京の街を救う。まさにビッグバンの中に突っ込んでいく宇宙船のような姿と、その後の静寂・寂寥感は胸にぐっと来ます。「有」から「無」になり、また「有」を作り出していく人間の強さを改めて感じさせてくれるようです。

DVDになり、音声もDOLBY DIGITAL 5.1chで迫力満点! 非常に独創的でちょっと日本的なニュアンスがある音楽や、ネオ東京の街の音・効果音が包み込み、音響面からもどっぷりと映画の雰囲気にハマっていきます。
でも、やっぱストーリーは難しいっす。原作を読んでいれば分かる点も多いんだろうけど、それぞれ「AKIRA」を見つけたり、「AKIRA」になろうとする目的は何なのか? 凄い存在なのはなんとなくわかるけど、その凄さが最後までわからない。そんなもどかしさが途中にある。
映画自体のインパクトはめちゃめちゃ凄い!! 日本のアニメ史に残る作品というのは認識しました。だから、8.5点ですね。


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8.デイ・アフター・トゥモロー(2004.7) 

基本情報 製作:2004年 米国作品
上映時間:124分
監督:ローランド・エメリッヒ
出演 ジャック・ホール…デニス・クエイド(「オールド・ルーキー」’02)
サム・ホール…ジェイク・ギレンホール(「グッド・ガール」’02)
ラプソン教授…イアン・ホルム(「ロード・オブ・サ・リング」シリーズ)
ローラ…エミー・ロッサム(「ミスティック・リバー」’03)
解説 二酸化炭素の大量排出は依然として止まるところを知らず、それに伴う温暖化は日に日に深刻さを増していた。南極の氷河を研究する古代気象学者のジャック・ホール教授は、自らの調査結果から地球の危機を予見、科学者を集め緊急会合を開き地球規模の“スーパー・ストーム”が出現すると警告する。やがてそれは現実となり、巨大な竜巻がLAを襲い、一方のニューヨークでは巨大な高波が街を呑み込もうとしていた。そこには、仲間たちとたまたま来ていたジャックの息子サムもいた。ジャックはできるだけ多くの人命を助けるため、そしてニューヨークで孤立したサムを救い出すため奔走するのだったが…。

千代田区の飲み屋街ってこんなんかい!!(怒) どう見ても香港の九龍あたりの路地裏にしか思えん。なーんか暗いしごみごみしてるし、安っぽいネオンの看板ばっか・・・ なんやあの店頭のたこ焼き屋みたいな飲み屋は! 秋田屋でももっとましやぞ!!(暴走気味) どうも「ブレードランナー」以降、ちょっと退廃的なイメージで東京を映すのがカッコイイと思ってる西洋人監督が多いので困る。千代田区勤務の人間にとっては我慢ならんな。

さて、本編とはほとんど関係ないコメントから始まったこの映画。CMや予告編で見られた圧倒的なCGの迫力に驚いた方。ま、本編もその期待に沿うものだと思います。イメージ的には「ディープ・インパクト」「バーティカル・リミット」の寒ーいところをプラスし、ちょっと古いが「ツイスター」のスパイスを振りかけたような感じっすかね。

監督は、皆さんも良くご存知の「インデペンデンス・デイ」や「GODZILLA(ゴジラ)」など、巨大な物体を登場させてアメリカを破壊するのが得意なローランド・エメリッヒ(ドイツのお生まれ)。「インデペンデンス・デイ」では宇宙人にホワイトハウスを破壊させたり、元空軍パイロットの大統領がUFOに猪突猛進したり、でも大統領夫人はあっさり死んじゃったり・・・とやりたい放題。「GODZILLA」でもやっぱりマディソン・スクエア・ガーデンを破壊し、ニューヨークの高層ビルを壊し(ゴジラじゃなくて米軍が、だけど)、ゴジラに卵を産ませるなど、やっぱりやりたい放題。

いやあ、さすがに映像は凄いっすよ。冒頭の南極の氷解シーンでは無茶な主人公ジャックの性格をよく表してるし、超巨大竜巻に襲われるロサンジェルスの「使用後」映像も圧巻ですね。誰も本物を見たことがないわけだから、「あんなになっちゃうの?」って感じの破壊ぶりは説得力がなさそうであるようで・・・。
なんと言っても、NYの街を襲う大津波の映像の迫力は、さすがに映画館で観ると手に汗握ります。自由の女神は台座を含めると約93m !!とのことですので、100m近いハチャメチャな津波が来た訳やね。でもこんな津波やったらあっさりポッキリいきそうなんですけど。思いのほか女神は足腰が強いらしい。よく踏ん張った!! 感動した!!
やっぱり大自然の威力の前には人間(とその建造物)なんて無力なもんですわ、ってことを再認識します。その後でロシアの貨物船?をNYの街に浮かばせてみたり、ってこの船が結構重要だったりする。でも、狼くんたちどこにいたのよ? 人間より頭いいね。
巨大な台風のような寒気が引き起こす大雪によって埋め尽くされたNYの街。真っ白だからCG的にはこっちの方が楽か??

なんか評価してるのかケチ付けてるのか分からんくなってきたが、ちゃんと考えるべきとこもありまっせ。一応。
父親は子供の生存を信じて救出(確認?、再会?)しに行くし、子供も父親が来てくれる事を信じながら必死で生き残ろうとする。「信じるものは行動する」自分の危険も他人の危険も顧みず、目的に向かって必死に行動する姿はそれなりに感動的でもあり、でもよく考えると残酷でもある。こういう映画は周囲の犠牲の上に主人公たちの成功や幸福が成立しているパターンが多いが、その描き方が浅いと「本人達が幸せならええんかい」という印象を持ってしまう。その点、この映画には少し疑問符がつかざるを得ない。

もう一つ。冒頭、地球温暖化を巡って経済優先のエゴを振りかざすアメリカの副大統領と各国の代表・ジャックが議論するシーン。今までにない異常気象と氷河期の再来を予測したジャックの言うことを全く聞かない政府。後手後手に回る対応や、避難させると決めるや、米国民を受け入れさせるために中南米の対米債務を帳消しにしちゃうなんていうメチャメチャな政策をゴリ押しする新大統領。
内容の如何はともかく、「京都議定書」なんて忘れつつあった我々の記憶を呼び起こし、地球温暖化の放置が引き起こす「可能性」を映像で見せてくれた作品ではあった。最近もあった東海地方の集中豪雨なんかを見ると、映画の内容が全く荒唐無稽なものではないかもしれないと思わせる。昨年の冷夏、現時点までの少雨・猛暑など、気候は確実に数十年前から変化している。今、自分たちの行動を振り返り、政治家さんたちも環境問題が選挙に勝つことと同等以上に重要なことだと認識しないと、手遅れになるかもしれない。

ということで、でもやっぱり「突っ込みどころ満載の娯楽映画」という表現が一番似合う。いい意味?で。「北半球だけ氷河期なの?」とか「アメリカ以外の国は? 日本はどうなっちゃったの?」 とか。そんな監督なんですよ。でも少し考えさせられちゃったので、甘めに7.5点差し上げます。


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7.ティアーズ・オブ・ザ・サン(2004.6) 

基本情報 製作:2003年 米国作品
上映時間:118分
監督:アントーン・フークア
出演 ウォーターズ大尉…ブルース・ウィリス(「ジャスティス」’02)
リーナ・ケンドリックス…モニカ・ベルッチ(「マトリックス・リローデッド」’03)
レッド…コール・ハウザー(「ジャスティス」’02)
ジー…イーモン・ウォーカー(「アンブレイカブル」’00)
ロード大佐…トム・スケリット(「リバー・ランズ・スルー・イット」’92)
解説 ナイジェリアでクーデターが起き、反乱軍によって大統領一家が殺され同国は深刻な内戦状態に突入する。アメリカ政府は、まだナイジェリア国内に残るアメリカ人全員の速やかなる救出を決定。ジャングルの奥深くで難民の治療に当たっていた女医リーナ・ケンドリックスの救助には、米海軍特殊部隊シールのウォーターズ大尉が向かうことになった。任務遂行率100%を誇るウォーターズは7人の精鋭とともに苦もなくリーナのもとに到着する。ところが、リーナは難民を見捨てて自分だけ助かることはできないと、その場を離れることを頑なに拒否するのだった…。

モニカ・ベルッチ!! モニカ・ベルッチ!! 戦場であんなカッコしてたら、ブルースでなくても言うことなんでも聞いちゃうって!! 出演してた「マトリックス」2作でもほとんど「特別出演」扱いで、はっきり言ってお飾り以上ではなかった。あまりに元モデルのオーラが出まくってて邪魔しちゃってるんやな。「華」はあるんだけどねえ。「マトリックス」ではそれでもいいかもしれんけど、この映画の「アフリカ難民キャンプで働くプロ意識の強い女医」役には「華」は必要ありません。ってより、観客はそのナイスバディ(死語…)に気を取られ、ストーリーを真面目に追う集中力を削がれるんですな(言い訳)。

福井県在住のやや映画オタクA津氏ご推奨の本作。内容は結構重いっすよ。内戦状態のナイジェリアからアメリカ人を救出する任務を背負ったブルースさん。無事モニカを救出したはいいものの、反乱軍の非人間的な残虐行為を見てしまったブルースは、最初は置き去りにするはずだった住民を連れ、軍の命令に背いて隣国への脱出を図るわけです。
「アルマゲドン」では地球の全生命体の命をド派手に救ったブルース。今回は抑え気味の演技で、現地住民の救世主及びシールのチームリーダーという難しい役どころを好演している。難しいミッションを数多く成功させてきた猛大尉としては、モニカの気持ちを汲み取って彼らの命をも背負う覚悟を決めるの速すぎ!! 敢えて言葉で語らせないのは演出なんだろうが、ちょっとヘリの上で考えて、引き返すのには「速いね君!」って突っ込みたくなるよ。

戦闘シーンはリアリティがあり、ミッション達成のプロ集団の正確な動作・戦闘・作戦の遂行は見ていても説得力がある。後半、反乱軍に取り囲まれ、たった7人で300人を敵に回し、なおかつ難民を気遣いながら悪戦苦闘し、倒れていくシーンはなんやかんや言っても男らしくグッとくるものがある。満身創痍になりながらもチームを引っ張り、モニカを脱出させることに命を懸けるブルースは、やっぱこういう役をやらせるとハマりますねえ。

この映画の評価を難しくしているのは、やはり「イスラム教対キリスト教」とか「米国の軍事介入の正当性」など、非常にタイムリーでナーバスな題材を扱っているからだ。映画で見られる「イスラム教の反乱軍=無差別人殺し集団」という描き方は、確かに正視できないシーンを見せられると「そうかも」って思ってしまうが、どこまで根拠のあることなのかはわからない。なぜなら彼ら側の「主張」や「意見」を見たり聞いたりするシーンがないからだ。どちらか(通常はアメリカの敵)が一方的に悪者にされてしまう。ドキュメンタリーではない、娯楽映画の限界、か。
最後の最後、救出要請を受けたF/A-18が爆弾を落としてあっちゅう間に反乱軍を殲滅し、絶体絶命に陥ったブルースを救ってしまう。局地的な戦闘には勝利したが、それで反乱は収まるのか? 助け出した前大統領の息子が正統な後継者と誰が決めたのか? 反イスラムだからいいのか? さすがにアメリカ国民も、これを観て拍手喝さい!!ってわけにはいかんだろうな。

まずは、モニカ・ベルッチを選んだところから損しているような・・・ そうだな、リンダ・ハミルトンあたりかジーナ・デイビスとかでどうでしょ? でも2人とも自分で戦いそうだな・・・ 「助けてあげたくなる」キャラ的にはモニカでもいいのかな。
音楽を担当しているハンス・ジマー。「グラディエーター」「ブラックホーク・ダウン」「パイレーツ・オブ・カリビアン」等、印象に残る渋い音楽を作っています。この映画でも感動的なシーンを音楽によってさらに盛り上げています。いい仕事します。ということで、音楽に助けられて7.5点にしちゃいます。


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6.トロイ(2004.6) 


基本情報 製作:2004年 米国作品
上映時間:163分
監督:ウォルフガング・ペーターゼン
出演 アキレス…ブラッド・ピット(「オーシャンズ11」’01)
ヘクトル…エリック・バナ(「ハルク」’03)
パリス…オーランド・ブルーム(「パイレーツ・オブ・カリビアン」’03)
ヘレン…ダイアン・クルーガー(「ミシェル・ヴァイヨン」’03
プリアモス…ピーター・オトゥール(「アラビアのロレンス」 1962)
解説 紀元前12世紀。貿易の中心地として繁栄を極める都市トロイ。その富はギリシャ各国の標的となり、長年に渡って戦いが繰り返されていた。そしてある時、これまで敵対していたギリシャの強国スパルタの王メネラウスが和解を促してきた矢先、トロイ王子の弟パリスによってメネラウスの妃ヘレンがさらわれる事件が勃発する。パリスとヘレンは一目会った瞬間互いに恋に落ち、もはやその熱情を抑えることは出来なくなっていた。しかし、王の権威を汚されたスパルタの指導者たちは、王妃を奪還するため無敵の戦士アキレスと千隻もの船団をトロイへ差し向けるのだった…。

まず・・・ 不惑になるならブラピを目指せ!! 1963年生まれの40歳。「リバー・ランズ・スルー・イット」が29歳の時の作品だから10年余り経ったことになる。フライフィッシングやってた爽やか好青年は、荒々しくも心優しい戦士となりましたよ。相当鍛えたようで、腕なんか丸太のよう。よっぽど自信があるのか、何回もハダカになって観客の目を楽しませてくれます。「ファイト・クラブ」の時の引き締まった腹筋と違い、体が一回り大きくなったような筋肉の付き方で、正にウォーリァー(戦士)の迫力充分。走り込みの成果?か、この映画でも走る走る走る!飛ぶ飛ぶ! ブロンドの長髪をなびかせ、獲物を追うヒョウのように力強く駆けていきます。40歳でこの動きだもんなー。やっぱ日頃食ってるモンが違うからか・・・

それから・・・ オーランド・ブルームはやっぱり弓が似合う!! 「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズで気高いエルフの戦士を熱演してた彼も、この映画ではもうホント情けないくらいのダメ王子ぶりを発揮してます。若さに任せて人妻を寝取っちゃって戦争の原因を作るわ、寝取られちゃった相手と勇気を振り絞って戦うけど死にそうになってコソコソ逃げ出し、兄王子ヘクトル(エリック・バナ)に助けてもらうわ、もう情けなくって父ちゃん泣けてくるよって感じ。ま、彼の活躍?があって、頭が良く戦いも強いヘクトルのいい男ぶりが際立って見えるんだろうけど。最後にアキレスと戦うんだけど、剣ではかなわないと思ったか、その前の晩に弓矢のコソ練をする彼の姿は健気ではある。おかげでアキレスを射るときの立ち姿は「レゴラス」そのもの!よかったねえ、へなちょこのまま終わらなくて。
でも、熱狂的なファンは見ないほうがええかもね。「こんなハズじゃない!!」とか思われても可哀想やし。

おっと、内容書くの忘れそうになった。この2大見どころに気を取られてしもた。
「トロイ」とくれば、「トロイの木馬」。アキレスとくれば「アキレス腱」。ま、誰でも大体知っている伝説ですな。この映画でも最後のほうでちゃんとこれらの場面は描かれています。あんまり世界史に詳しくないので、この2つのネタが同時期だったのかどうかもよく知らない。
どこまでも美しく青く輝くエーゲ海に浮かぶ数千の船。3000年前の「ノルマンディー上陸作戦」のようなアキレス隊の戦いぶり、そしてトロイ城壁の前での大戦闘シーン。木馬からカマキリの子供みたいにわらわら出てきたスパルタ兵が火を付けて燃え上がるトロイの街。超大作に相応しい壮大なシーンが広がります。これはやっぱり映画館の大スクリーンで見なきゃ損だわな。

いとこを殺されたアキレスとヘクトルの一騎打ちは、なかなかに緊迫したシーンとなっております。ちょっとブラピの動きは演出過剰気味なんだけど、スピードと迫力・力強さが良く描かれているのであまり気にならない。それにしてもブラピ強すぎ!! 超人的な強さでヘクトルを追い込み、一気に倒す。息も切らさず、勝って当然って感じで颯爽と帰っていく。カッコ良すぎ!!

でも、そんなアキレスも美しい女の人には弱い。好きな女性・家族を守らんとする男たち、戦争で死に行く男を送り出さねばならない妻。死者を火葬して魂を送るシーンが何回も出てきて、戦争の酷さも訴える。でもこの映画の主役はやはり男たちの戦い・勇気・名誉にあるんだな。ここらへんの厚みはどうなのか、評価が分かれるところかもしれない。

私としては、40年前のアカデミー賞映画「アラビアのロレンス」で主演したピーター・オトゥールを久々に見たのが嬉しかった。もう完全におじいちゃんになっちゃったけど、存在感はピカ一。この粋なキャスティングも含め、8点といたします。

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5.ターミネーター3 (2004.5) 


基本情報 製作:2003年 米国作品
上映時間:110分
監督:ジョナサン・モストウ
出演 ターミネーターT-850…アーノルド・シュワルツェネッガー(「コラテラル・ダメージ」’01)
ジョン・コナー…ニック・スタール(「シン・レッド・ライン」’98)
ケイト…クレア・デーンズ(「めぐりあう時間たち」’02)
ターミネーターT-X…クリスタナ・ローケン(「エネミー・フォース」’01)
解説 コンピュータ“スカイネット”が支配する未来社会から送り込まれたT-1000の襲撃を、T-800の身を挺した活躍で乗り切ったジョン・コナー。それから10年、“審判の日”は回避されたかに思われ、彼は新たな人生の目的を見つけようと放浪の旅を続けていた。そんなある日、突如として新たな刺客“T-X”が送り込まれてくる。女性のボディを有しT-1000をはるかに上回る性能を持つT-Xは、“リスト”にある人間たちを次々に抹殺し始めた。再びマシーンとの戦いに身を投じるジョン。そんな時、彼の前にあのT-800と同じ形状のターミネーターが姿を現わした…。

(ネタバレあり。ご注意を)
シュワちゃん、T4に出るつもり?? というのが第一印象…。

言わずと知れた超メジャーアクション巨編の3作目。1984年の「T1」、1991年の「T2」、そして1作目から約20年経って「T3」が登場。その間にシュワちゃんは37歳のムキムキマッチョマンから56歳のシュワ知事に変身! とても還暦4年前と思えないハダカを披露してくれちゃいます(CGでなければ)。

このシリーズは結構好きっすよ。「T1」のB級映画っぽい雰囲気や、どこまでも追ってくるターミネーターの執念。ちゃっちいロボットの動きなどなど。「T2」のド派手なアクション。液体金属でできたT-1000のCGに目を奪われ、時代の変化と進化を感じたものだ。

さてさて、内容はと・・・ あれ? ジョン・コナーがエドワード・ファーロングから知らんやつに代わってるやん!! それにリンダ・ハミルトン(=サラ・コナー)に至っては死んじゃってる!! えらく大胆なキャスティング。色々問題あったらしいけどね。
最初から飛ばします。T-Xが乗る巨大クレーン車とシュワちゃんの車のカーチェイス。その後にシュワちゃんがクレーン車にしがみついて邪魔しようとするシーンは笑える。もう、駐車中の車だろうがスーパーだろうがハチャメチャわやくちゃに壊しまくる!!これでもかというぐらいに壊しまくる!! そのたびにシュワちゃんは色んなところにぶつけられるんだけど、痛そうな金属音を出すだけで決して手を離そうとしない。この壊しぶりはスカッとしまっせ。

今回のシュワちゃんの使命はちょっと複雑。単にジョン・コナーをT-Xから守るだけではない。「未来」への希望をつなぐ存在として、ケイトという女性をも守らねばならないシュワちゃんは役割重要。対するT-Xも女性。モデル出身のターミネーターは、その美しい肢体と顔立ちから想像も出来ない武器(ミサイルやら火炎放射器?やら・・・)を体内に持ち、残虐の限りを尽くす。
でも、特にトイレでの戦闘シーンはちょっとかわいそう。っていうのは、CGなんだろうけど、おじさんシュワちゃんが娘のようなうら若き女性と真剣につかみあってボコボコに戦っているのである。ぱっと見、シュワちゃんの方が悪役なんじゃない?と思わせるシーンである。フェミニスト団体からクレームが来そうだ。

この戦闘シーンなんかは、確かにCGの質や迫力は「T2」より数倍パワーアップしている、ハズなんだが・・・。どこかで見たことがと思うと、やはりマトリックス・リローデッドのキアヌ・リーブスvs大量スミの戦闘シーンを思い出してしまう。人の吹っ飛び方や金属的な音などがそっくりで、意外感や新鮮さはあまり感じられない。「T2」であんなに斬新なCGを披露したのに、「新作が何かに似ている」という印象を持たれるのはやはりシリーズが成熟しすぎたからなんだろうか。常に進歩していかなけばならない、シリーズモノの宿命。

最後もなー。「え、そういうことなの?」という意外感はあるが、結局人間ってダメな生き物なのねという現実を突きつけられてしまう、重い終わり方である。っていうか、終わりになってないじゃん!! とりあえず2人だけ助ければいいの? もうちょっと早く来て、核戦争そのものを止めようよ、って言いたい。このシリーズ好きだけど、何ともいえない後味の悪さが残ります。大まけにまけて7.5点

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4.フォーン・ブース(2004.5)

基本情報 製作:2003年 米国作品
上映時間:81分
監督:ジョエル・シューマカー
出演 スチュ・シェパード・・・コリン・ファレル(「デアデビル」’03)
レイミー警部・・・フォレスト・ウィテカー(「パニック・ルーム」’02)
ケリー・シェパード・・・ラダ・ミッチェル(ピッチ・ブラック」’00)
パメラ・マクファデン・・・ケイティ・ホームズ(「ギフト」’00)
解説 ニューヨーク・タイムズスクエア。携帯電話片手に街を練り歩くスチュ・シェパードは、自称一流のパブリシスト。いつものように口八兆でクライアントとの商談をまとめたスチュは、携帯をしまうと傍のフォーン・ブース(電話ボックス)に入る。電話の相手は売出し中の女優パメラ。仕事を餌に誘いをかけるがパメラの態度はつれない。しぶしぶ電話を切りブースから出ようとしたとき、公衆電話のベルが鳴る。思わず電話に出てしまうスチュ。その耳に不気味な声が…電話を切ったら殺す。それは苛酷なゲームの始まりだった。

風変わりな映画である。ストーリーは、ほとんどニューヨーク(本当はロスの街)の繁華街にある1つの電話ボックスで始まり、そこで終わる。出てくる人達も少ないので、途中で誰が誰だかわからなくなることはない(というか、少なすぎる)。時間も81分なので飽きることはない。撮影にいたっては、映画界の常識を外れた「たった10日間」で撮り終わっているとのこと。

こういう映画は危険なんやなー。「外れ」ると、「ほんま、見ないほうがよかった」ってな感想を持つことになる。ま、レンタルやし、外れたときは約500円を時間つぶしに使ったと後悔すりゃいいか・・・

さて、主演は今旬の俳優の一人だろう、コリン・ファレル「デアデビル」ではスキンヘッドでベン・アフレックの敵役を熱演、「S.W.A.T.」でも能力あるさわやかな隊員を演じていて、映画界&女性ファンの間の存在感は増す一方である。
今回は、頭は悪くないがインチキまがいのしゃべくりで商売を取っていく「自称一流」の宣伝屋(≒パブリシスト?)。優男風のいでたちと嫌味満点で人を見下したような態度、ヤな奴ぶりが結構絵になっていて若かりし頃のブラッド・ピットを彷彿とさせる(というのはホメすぎか・・・)。

むむー。男的には非常に見ていてつらい映画だなー。主人公は電話ボックスに釘付けにされ、人殺し呼ばわりされ、思ってもいないことを無理やり言わされ、そんな姿をテレビで放映され、挙句に衆人環視の前で「人生の懺悔」をさせられるのである。その2大原因が、「人を使い捨てにするような高慢な態度」と「浮気」なのである。(映画の中時間で)たった3時間の間に、誰かも分からない犯人から脅され、地獄に落とされ、自分の人生を全否定されるような仕打ちに合うのだ。人間、多かれ少なかれ「弱み」を持っているが、命を狙われながらそれを突かれるとあっという間に人間は白旗を揚げてしまう。

コリン・ファレルは、そんな不運だが自業自得な男を好演している。何とか工夫して自分のシチュエーションを周りの人間に伝えようとするところは、「自称一流」の雰囲気をまだ引きずっているように見えるし。その後、犯人の無理難題を聞かざるを得なくなってきたときのダメ男ぶり(でも非常に人間的)は、全く違う人間を一人二役で演じているようなリアリティがあった。長いセリフも頑張って言えてます。なかなか演技うまいっすよ。

いや、なかなか良かった。限られた場面・登場人物・時間の中で、「次は何をさせられるんだろう。主人公はどう答えるのか?」てな感じで主人公と同じ精神状態にさせるのは監督の手腕によるのだろう。息苦しい緊張感が味わえます。結構暑くなります。
ま、最後はめでたしということで良かった、なんて思ってたらなんとなんと!あんなことに・・・。あの俳優がこんなチョット出かいなと思います。上の出演者リストには敢えて出していません。本編を観て確かめておくんなまし。これは8点だな。なかなか良いっすよ。



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3.座頭市(2004.4) 

基本情報 製作:2003年 日本作品
上映時間:115分
監督:北野 武
出演 座頭市・・・ビートたけし
服部 源之助・・・浅野 忠信
おうめ・・・大楠 道代
新吉・・・ガダルカナル・タカ
銀蔵・・・岸部 一徳
飲み屋の親父・・・柄本 明
解説 ある宿場町。金髪頭に朱塗りの杖を持った盲目の居合いの達人・座頭市(ビートたけし)。卓越した剣術を持ち、用心棒の口を探す浪人・服部源之助(浅野忠信)と妻おしの(夏川結衣)。旅芸者のおきぬ(大家由祐子)、おせい(橘大五郎)姉妹。この3組に、宿場町を仕切っているヤクザの銀蔵(岸部一徳)一家と、金持ちの商人・扇屋(石倉三郎)が偶然・必然相絡み合って、めぐり合う。
銀蔵一家、そして服部との壮絶な戦いに挑む座頭市。問答無用の戦いが幕を開けようとしていた・・・!

「血」見るの大丈夫ですか? 健康診断で自分の血を抜かれるのを見ただけでクラッと来る方は、観ない方がよろしい。
この映画は流血の大盤振る舞い!腕は飛ぶわ、仕掛け花火のように血が吹き出るわ、少しグロい。

世間では色々な批評がありましたな。「なんで金髪なんや!」とか、「時代劇にタップダンス!?」とか、「ギャグが良く分からない」とか。

私的には、これらについて特に違和感はない。ツービートの頃からビートたけしを見慣れている我々世代には、たけしが何をやろうと「らしくない」という感覚を持つことは少ない。金髪だって別に気にならないし、独特の「間」もニヤリとしてしまう方である。ギャグはこの映画では一つのスパイスに過ぎない。こんなのに目くじら立てなくてもいいのにね、と思います。

さて、内容はやはり「一大エンターテイメント」と表現するのが相応しいやろうな。ストーリー的には小難しいことはあまりなくて、途中で悪者たちの黒幕も自ずと見えてくる。
たけしの演技も、「もうパンツははかない」発言で有名な勝新とは存在感・重さにおいて一歩譲るんだろうが、その代わりとしてこの映画は「スピード感」「リズム」を高めている。たけし・浅野忠信とも目に見えないスピードの居合い・殺陣。ハリウッドのアクション映画のように「スローモーション」を多用したスピードの表現ではなく、閃光・きらめきを残すような美しさである。ピストルドンパチやるような距離感があるとやはりダレやすい。刀と刀が触れ合うような距離が感じさせる緊張感・息詰まり感がこの映画の最大の見所だろう。

もう一つは「リズム」である。スピード感あふれる殺陣のシーンもその一つの要素なのだが、「音楽」のリズムが結構心地いいのである。正直、たけしがこんなに音楽に気を配り、リズムを重要視する人だとは思っていなかった。「田んぼの中の農民」が出す音や、「焼けた家を再建する大工たち」の出す音とラップしてくる静か目の音楽。これが結構はまるのである。ミュージカルシーンの一つを見ているようだった。意外。
タップダンスのシーンも、その少し前にある村祭りでの踊りのシーンとちゃんとつながっているように見えた。音楽・踊りというのは万国共通。登場人物たちもちゃんと頑張って踊ってたから許してあげましょうよ。あれがあるから「たけし映画」になっているんじゃない?

ということで、結構好意的な評価をさせてもらいました。見て損はありません。ってより、見たほうが面白いと思います。8点


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2.シカゴ(2004.4)

基本情報 製作:2002年 米国作品
上映時間:113分
監督:ロブ・マーシャル
出演 ロキシー・ハート・・・レニー・ゼルヴィガー(「ブリジット・ジョーンズの日記」’01)
ヴェルマ・ケリー・・・キャサリン・ゼタ=ジョーンズ(「エントラップメント」’99)
ビリー・フリン・・・リチャード・ギア(「オータム・イン・ニューヨーク」’00)
解説 1920年代のシカゴ。舞台スターを夢見るロキシー・ハート(レニー・ゼルウィガー)は「有名にさせてやる」と言った男に騙されたことを知り、怒りのあまり男を殺してしまう。留置場へ送られた彼女はそこで憧れのスター、ヴェルマ・ケリー(キャサリン・ゼタ=ジョーンズ)と遭遇。実はヴェルマはコンビを組んでいた実の妹を殺して捕まり、伝説のヤリ手弁護士ビリー・フリン(リチャード・ギア)を雇って弁護して貰っていたのだ。それを知ったロキシーもさっそくビリーに弁護を頼むのだが、果たしてその結果は?。

今更ながらですが「CHICAGO」。第75回アカデミー賞の作品賞他合わせて6部門を受賞したミュージカル映画。ビデオ鑑賞です。

結構いけます。有名なブロードウェイミュージカルの映画化」くらいの予備知識しかなかったのが良かったんかも。どうもミュージカル映画って唐突に歌い踊り出すし、「リチャード・ギア?最近ぱっとしないよな」なんて今思うと失礼な先入観ありありでした。
ストーリーはいたって簡単。舞台女優を目指すレニー・ゼルヴィガーが、「俺にはコネがあるよん」なんて言う男と不倫したあげくコロッと騙され、勢い余って男を殺してしまうが、有能(=インチキ)な弁護士を雇い正当防衛?(不可抗力??)を理由に無罪???を勝ち取るまでの緊張感あふれる感動的なドラマ(うそ)である。

見どころは2つ。1つはキャサリン・ゼタ=ジョーンズの存在感。さすがアカデミー助演女優賞を獲得しただけある怪演。始まってすぐのソロシーン、妹とかを殺してブチ込まれた刑務所でのヤな奴ぶり、はっきり言って影の主役級の印象度であった。これこそ体当たりの演技っちゅうやっちゃ。歌・踊りも完璧な美しさで大人のフェロモン撒き散らしまくりである。

もう1つ。「愛がすべてさ〜」なんて歌いながら実は金!金!金!の超悪徳有能弁護士リチャード・ギアの「トランクスダンス」である。こういう一見有能な弁護士なんかをやらせたら日本一?のリチャード・ギアだが、結構真面目に楽しそうに歌っているのである。トランクス姿で。なんでトランクスなのかは忘れたが、特に脈絡はなかったような気がする。やっぱりコメディーというか、ちょっと脱力系の映画にはこの人のいっつも笑っているような顔がぴったりやな(褒めてるんです)。

他にも、存在感のないレニー・ゼルヴィガーの夫が歌う「俺はー、セロファンだー」という悲しい歌(そこにいるのに透明なので見えない、見てくれない、という意)や、リチャード・ギアが腹話術のおっちゃんに扮してレニー・ゼルヴィガーを操る歌など、笑いを誘うシーンがたくさんあってとってもよろしい。
他の囚人が死刑になったり、なぜ刑務所にブチ込まれたか解説するダンスシーンなんかは、真面目に作ると結構怖いシーンになるのだが、映画全体を覆う「いい意味での楽天さ」のおかげで暗くなることはない。男にとってはぞっとしない話ばかりなのでグサッとくるかも(殺されるのも男がほとんどやし)。

ミュージカルシーン・法廷でのインチキ対決・普段の生活などの構成・つながりが素晴らしく、飽きずにじっくり楽しむことができます。いやー、でもやっぱりリチャード・ギアのトランクスは驚きやなー。目のやり場に困る。このリチャード・ギアの頑張りにオマケで0.5点をあげて8.5点を差し上げます。


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1.ロード・オブ・ザ・リング 王の帰還 (2004.2)

基本情報 製作:2003年 米国作品
上映時間:203分
監督:ピーター・ジャクソン
原作:J・R・R・トールキン
出演 フロド・バギンズ・・・イライジャ・ウッド(「ディープ・インパクト」’98)
サム・・・ショーン・アスティン(「グーニーズ」’85、「メンフィス・ベル」’90)
アラゴルン・・・ヴィゴ・モーテンセン(「クリムゾン・タイド」’95)
ガンダルフ・・・イアン・マッケラン(「ゴッド・アンド・モンスター」’98)
レゴラス・・・オーランド・ブルーム(「パイレーツ・オブ・カリビアン」’03)
アルウェン・・・リブ・タイラー(「アルマゲドン」’98)
解説 言わずと知れたファンタジー超大作シリーズ「ロード・オブ・ザ・リング3部作」最終章。冥王サウロンが創った邪悪な指輪を捨てるため「滅びの山」を目指すフロドの旅を中心に、白の勢力と闇の勢力の戦いを描く今年度のアカデミー賞11部門受賞!!

 まず、始まる前にトイレに行っておきましょう。映画館に持ち込むドリンクも少量に。なんせ3時間23分の超”長”大作ですから。でも、時間の長さを全く感じさせないほど凝縮された内容でっせ。
前作「-ニつの塔」と同様、指輪を捨てる旅を続けるフロド・サム・ゴラム組と、闇の勢力(オーク系)と戦うアラゴルン・ガンダルフ組の2つの側面から話は続く。

 前作で次第に正体を見せ始めたゴラムは、本当に最後まで道案内をしてくれるのか?指輪の力に戸惑いと畏れ・かすかな魅力を感じ始めたフロド、それを心配そうに見守るサム。サムは本当に健気ですが、今回は少しかわいそう。人間、何が怖いって「人に誤解される」のが一番怖いと思うな。
 さてさて、このあたりの心理的な機微も見所なんですが、前作以上に気合が入っているのが戦争シーンですな。現実にはいない象みたいなのや巨人たちは当然CGなんだが、全く違和感無く人間たちの間で動き回っているのは驚異的。どうやって撮っているのか見当もつかない。重力の法則を無視したレゴラスの戦いぶりはご愛嬌やけど、カメラワークの凄さによる臨場感は前作以上。これを観ると「スターウォーズ」シリーズの戦闘シーンなんて甘っちょろく観えてしまう。
 男のカリスマ性をふりまくアラゴルンを中心にしてまとまっていく人間たち、死んだ人!まで駆り出して戦いを挑むところなんかはやはりぐっとくるところで、フロドのための戦いに突っ込んでいくラスト近くはとっても男らしいぜ!!

 しかし、しかしなあ、あえて苦言を呈させていただくと・・・
 戦争シーンが凄すぎ&長すぎて、「指輪を捨てに行く物語」という面が薄れ、闇の勢力との戦争映画みたいな雰囲気にだんだんなってきたのは否めないと思うな。フロドからの信頼を失いつつあるサムの苦悩、やっとたどりついた「滅びの山」火口で指輪を捨てることを躊躇するフロドの葛藤など観せるべきポイントは多いのに、仲間と続ける旅という中心軸がだんだん脇に追いやられ、浅いものになっていく。反面、「すごいやろこの戦闘シーンは!!観なはれ」的な映像が映画の主軸になっていき、不死身のアラゴルン初め人間の正義の戦いがクローズアップされていく。アルウェン(リブ・タイラー)の命が・・・なんてのはほんのオマケ程度の扱いでしかない。
 ま、映画館で観るのが相応しい、純粋に娯楽映画の王道をいく作品なんやろう。ニュージーランドの美しい風景、繊細な音楽(「」も良かった)、そして人間の弱さと強さ・人を信じることの美しさをなかなか見事に描いた作品です。

私自身、このシリーズ大好きやし、「面白さ」という点では満点あげたいですが、「旅」という面をもう少し見たかったので、この作品は9点(10点満点)差し上げます。